総研大 文化科学研究

論文要旨

教会に傾斜する庶民

―トンガ王国エウア島の寄付集めの事例から―

文化科学研究科・地域文化学専攻 森本 利恵

キーワード

トンガ、王権、庶民(平民)、教会、寄付、義務感

トンガの地域社会や教会では、寄付集めを盛んに行っている。人々の世帯収入の大半は、海外の親族からの送金に占められ、その現金収入は、生活費としての日用品の購入、教会への献金、村での寄付集めに使われる。

本論は、トンガタプ島の南東数キロに位置するエウア島の寄付集めに注目をする。エウア島の村では、教会単位(ファカシアシ)と地区単位(ファカシアシ)の2種類の寄付集めが行われている。村人によるこの2つの使い分けは、トンガの伝統的な庶民の義務感(ファトンギア)と関係している。ファトンギアとは具体的に、チーフへの労働と供物の提供を意味し、先行研究ではトンガのファトンギアを義務、相互関係と位置づけている。筆者は、ファカシアシとファカフォヌアで行われる寄付集めへの村人の対応を例にあげる。フィールドワークのデータから、ファカシアシの寄付集めは、ファカフォヌアの寄付集めより成功している。この違いは、村での要請者(行政と教会)の違いによると考えられる。

歴史的な視点からみると、トゥポウ1世は、伝統的なチーフと庶民の関係を変えようとしたことがわかる。庶民にとって、それまでチーフは伝統的に信仰の対象であり、土地の管理者であった。従ってチーフへのファトンギアは、庶民の義務として考えられていた。しかし近年では、庶民の意識は、王や政府よりも教会とその指導者に傾斜している。現代のトンガ社会において、この傾斜がファカシアシとファカフォヌアという庶民の使い分けに現れている。最後に、村での寄付集めは、ファカシアシを内的な道徳観に支えられる義務によって行われるものとし、ファカフォヌアよりもより積極的に人々に行われるものと再定義する。

(受理日:2005年1月13日 採択日:2005年4月4日)