総研大 文化科学研究

論文要旨

弥生時代の開始年代

―AMS−炭素14年代測定による高精度年代体系の構築―

学術創成研究グループ 藤尾 慎一郎・今村 峯雄・西本 豊弘

キーワード:

AMS −炭素14年代測定法、実年代、弥生時代、水田農耕、九州北部、土器付着炭化物

日本歴史における重要な画期の一つが水田農耕の始まりであり、一般には、水田農耕の始まりをもって弥生時代の始まりとされる。水田農耕は九州北部に始まり、列島各地に拡散した。その九州北部の遺跡出土資料のAMS14C年代測定結果に基づき、2年前、国立歴史民俗博物館の研究グループは、「弥生時代の始まりは紀元前9−10世紀である可能性がきわめて高い」ことを発表した。その結論は、同時期の東日本の縄文晩期遺跡、韓半島南部の遺跡の年代測定結果とも整合するものであり、その後における多数の弥生時代遺跡の測定結果から繰り返し確認されている。本論文では、これまで得た、おもに九州北部の測定結果を整理して得られる弥生開始期の年代について、その根拠となるデータを示して現時点での結論をまとめたものである。

本研究は、九州北部における縄文時代晩期から弥生時代早期・前期に至る土器の型式編年とAMS14C年代測定によって得られる実年代との関連を明らかにすることで弥生開始期の年代を議論することにある。個々のデータに対しての議論と同時に、多数のデータの統計的な扱いや、主たる測定資料である土器付着炭化物の性格についての測定結果を示すことによって、得られたデータの解釈をめぐっての一部研究者の反対論に答えるものである。また、現時点で10世紀後半と考えられる弥生時代の開始時期についての、資料上の課題・問題点に言及する。