総研大 文化科学研究

論文要旨

第22号(2026)

染織に取り組む現代の女性達と
民芸運動との関わり方


―兵庫県青垣町佐治地域における丹波布の事例から


総合研究大学院大学 文化科学研究科 国際日本研究専攻
 小野 絢子


キーワード:

丹波布、民芸運動、柳宗悦、工芸、女性、染織

丹波布とは、現在の兵庫県丹波市青垣町周辺で織られている縞模様の木綿布である。丹波布の特色は、手紡ぎ手織りで織られ、産地周辺の植物染料を用いて糸染めし、緯糸につまみ糸と呼ばれる絹の屑糸を用いる点にある。模様は格子模様で、色は周辺の植物染料と藍染を用いる為、青や茶、黄、緑を主体としている。


地元で「縞貫」や「佐治木綿」と呼ばれていたこの布を、美的な価値観から評価し「丹波布」と名付けて支援したのは民芸運動の創始者である柳宗悦である。ただし柳が「丹波布」と呼んで評価したのは、「縞貫」や「佐治木綿」と呼ばれる様々な木綿布の全てではなく、ある一定のパターンを踏まえた一部の木綿布であった。


柳の評価と民芸運動からの働きかけにより、当時衰退の途にあった丹波布は1954(昭和28)年に復興を果たし、現在にも継承されている。復興した丹波布の担い手となったのは「技術者」と呼ばれている女性達である。彼女達は、「丹波布伝承館」で技術指導を受け、卒業後は技術者として丹波布を織り継いでいる。現在、「丹波布伝承館」を卒業した技術者は多くが女性である。同時に、産地では丹波布は農閑期に女性達が織っていたと語られていることから、丹波布の生産は女性の仕事として強く連想されてきた。


これまでの研究では、民芸運動が普及対象として女性に注目しており、女性側がどのように応えたかについて、岡山県倉敷市で聞き取り調査を行い検討した。岡山県倉敷市の事例と青垣町佐治地域の事例は、担い手が女性である点、その女性達が染織に携わっている点などの類似点を挙げられることから、両者の比較を通して佐治地域の事例の特色を検討する。


本稿では、佐治地域での事例を通して、民俗学の分野から女性による染織という活動の社会的位置づけを、ジェンダーの視点を交えて検討する。そのために、まずは民藝運動の働きかけによって「丹波布」が生み出され、復興および継承運動が展開する過程を整理する。次に、現在の丹波布の担い手である「技術者」の現状について、聞き取り調査を元に分析する。これらの調査結果を踏まえて、染織という活動がどのように女性性と接続しているのかを分析し、現代における染織に取り組む女性の働き方やその意義を明らかにする。