総研大 文化科学研究

論文要旨

長期的ユーザビリティの動的変化

―利用状況の変化とその影響

文化科学研究科・メディア社会文化専攻 安藤 昌也

キーワード:

長期的ユーザビリティ 利用状況 ユーザビリティ ISO 9241-11 利用年表共作法

“ユーザビリティ”は、製品やサービスの使いやすさや操作しやすさを示す概念である。現在のユーザビリティの概念は、製品やサービスの一時点での使いやすさを評価するものである。しかし、通常製品やサービスはユーザが長期間にわたり使用し、次第に使い込んでいくものである。本研究は、これまでのユーザビリティに時間の概念を導入し、より実際の評価に近いユーザビリティの概念として、長期的ユーザビリティ(Long Term Usability)を定義する試みである。

本論文では、製品やサービスの長期利用の実態を“利用年表共作法”により把握し、長期間におけるユーザビリティ評価の変化を分析した。利用年表共作法は、Time-Lineインタビューをアレンジしたインタビュー法である。調査では14名のユーザに、長く使用している製品やサービスを取り上げてもらい、現在までの利用来歴と評価の変化を尋ねた。対象となった製品・サービスは、45品目である。

分析の結果、ユーザが長く利用していると感じる要因は、物理的な時間の長さとは関係がなく、主観的な利用頻度が高く操作に慣れていると感じているものであることがわかった。また、典型的なユーザビリティ評価の変化には、2種類のパターンがあることがわかった。一つは、長期間にユーザの利用状況が変化することにより評価が変化したものである。もう一つは、時間を経なければ出現しない機能性や問題点が存在することにより、評価が変化したものである。この2つのパターンが、全体の82%を占めた。

利用状況の変化は、高校生から大学生になったことや仕事が忙しくなったなど、ユーザの環境や生活パターンなど、比較的大きなものがほとんどであった。評価が変化する理由は、利用状況が変化することにより、製品やサービスの使い方が変化する、そのため新しい機能性へのニーズが誘発され、評価が変化するという構造であった。

これらの調査結果を基に、長期的ユーザビリティのライフサイクルモデルを検討した。