総研大 文化科学研究

論文要旨

1949年以前の同姓団体の生成と現在の再興

―福建省南部の事例研究―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 比較文化学専攻 陳  夏コ

キーワード:

福建省南部、同姓団体、任意加入の社会結合、地域社会の秩序、商業化

宗族と同姓団体は、中国人社会によく見られる父系親族組織である。福建省南部には、この二つのタイプの父系親族組織が存在している。1949年以前、当地域では、宗族組織が発達した。このような地域社会の秩序の中で、同姓団体が生成された。1949年から1978年までの間、社会主義政権のもとで、同姓団体は宗族と同じように、批判・排除されて解体された時期があったが、1990年代からは、中央政府の改革開放政策のもとで、宗族組織の復活に伴って、同姓団体の形成が再び活性化するようになっている。

これまで宗族については、一定の先行研究の蓄積があるものの、同姓団体の形成過程および現状については、いまだ十分に研究されているとはいえない。本論文は、同姓団体に注目し、その形成の歴史と現状を考察しようとするものである。

成員権が生得的なものである宗族とは違い、同姓団体は任意加入の社会結合である。同姓団体の出現は宗族よりも遅い。任意加入団体の形成は、つねに特定の社会的需要や社会変動に応じたものである。変化している社会的環境のもとで、人々は任意加入団体への参加によって自らの現実的なニーズに応じて新たな環境に適応しようとする。したがって、任意加入の結合である同姓団体を理解するにあたっては、同姓団体の生成・展開だけではなく、その生成・展開と社会環境や社会変動との関係が欠かせない視点となってくる。

筆者の調査地の福建省南部は、宗族組織が発達してきただけでなく、地域内外で活躍する商人を輩出してきた地域である。近年では経済発展が著しい地域として知られている。本論文では、当地域の同姓団体の事例に注目しつつ、1949年以前と1990年代以降という二つ時代的区分に従って、それぞれの時代における同姓団体の形成と社会的背景や社会変動との関係を検討してみたい。