総研大 文化科学研究

論文要旨

副葬品配列からみた武器の価値

―軍事組織復元の可能性―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 日本歴史研究専攻 藤原  哲

キーワード:

武器、副葬品配列、価値、古墳時代

本論の目的は古墳時代における軍事組織の可能性を探ることである。これを検討するための考古学的な資料としては古墳時代の武器や武具が挙げられる。しかしながら古墳時代の武器は大部分が墳墓から出土しており、直接的には戦闘や軍事組織を反映していない可能性が高い。

そのため、武器という資料を検討する一手段として遺物の出土状況、すなわち古墳における武器の配置状態を検討し、墳墓としての古墳で武器や武具がどのように取り扱われてきたのかを探る。そのことで当時の武器の価値的な側面を明らかにする。その結果から古墳へ埋納された武器がどの程度、実際の武装(実用性)や組織を具現していた可能性があるのかを考えてみた。

古墳時代前期〜後期の未盗掘の竪穴系墳墓を中心に武器の副葬状況を検討した結果、近畿を中心とする大・中規模の古墳においては、「遺骸の外部との遮断」から「武器の同種多量埋納」、「記号的属性を帯びた副葬」へという変化過程を経ることを明らかにした。一方、中・小型の古墳では、前期において少数の武器を人体付近に副葬する事例が多く、中期にいたると防御用道具(甲冑)、接近戦用道具(刀剣)、遠距離戦用道具(弓矢)など、それぞれ用途の異なる武器を少数ずつ人体周辺に副葬する特長が抽出できた。

武器の価値的な背景を検討し、武器副葬の意義を考察した結果、大・中の首長たちの副葬行為は武器を大量に副葬するという象徴的な、又は記号的な意味合いが強いと考えた。対照的に、中・小首長たちは、人体付近に武器を副葬しており、それら武器は実際に使用していた、又は生前の身分を表すような価値的な背景を推察した。その結果から、古墳時代の副葬武器から実際の戦闘や軍事組織が復元できる可能性を指摘した。