総合研究大学院大学 文化科学研究科 比較文化学専攻 中田 梓音 キーワード: 「おかま」、スナック、接客言語ストラテジー、ポライトネス 本研究は、酒場におけるコミュニケーション研究の一環として、調査・分析したものである。筆者はこれまで、スナックでの接客者と客との会話を収集し、会話分析を行なってきた。 このような接客業では、単に飲食物を提供するだけでなくたばこに火をつける、会話をして楽しませる、客のカラオケの歌に対して手拍子をする、など、客をもてなすサービスが行われており、それが飲食代金のみの居酒屋などの酒場と比較して支払いが高額になる要因の一つである。 スナックでの接客者と客の関係は女性接客者―男性客というケースが多いが、ここではそれから逸脱する事例として、男性として生まれながら女性として生きることを選択した、いわゆる「おかま」が接客者の立場で、一般のスナックで期待される「楽しませるサービス」をいかにマネージメントしているかを、言語ストラテジーに注目し、店内での会話を分析したものである。 言語ストラテジーとは相手(ここでは客)との効果的なコミュニケーションによって関係を良好にするために言語が果たす役割である。例えば、相手によって敬語の度合いを調節することも、その場を和ませるために冗談をいうことも言語ストラテジーに含まれる。 この会話分析によって見られた言語ストラテジーを、女性接客者においてみられたものとの共通点および差異に参照しつつ、客を楽しませる言語表現の特徴について考察する。 ここで、本論でキータームとなる「おかま」という言葉に触れておく。広辞苑によれば「おかまとは「尻(しり)の異名。転じて、男色。また、その相手」となっている。「おかま」は一般には蔑みの意を含むため、現在では、生物学上男性として生まれ女性として生活や仕事をしている人々を「ニューハーフ」と呼ぶことが広く浸透している。また、性同一性障害者を男女総括して「トランスジェンダー」と総称されることも多い。しかし「ニューハーフ」、「トランスジェンダー」は、別の意を含意するため本論の対象とするスナックとのかかわりではあまり用いられることはない。ここでは、一般的に差別性をもち、当事者には自虐的に用いられることがあることに留意しつつ、元来もっとも認知されているフォークターム「おかま」を用いることにする。 |