総合研究大学院大学 文化科学研究科 地域文化学専攻 チョルテンジャブ キーワード: チベット、アムド、ワォッコル村、人生儀礼、民族アイデンティティ 本稿の目的は、チベット・アムド地域すなわち中国青海省黄南蔵族自治州に位置する同仁県ワォッコル村における人生儀礼の変容について考察することである。 近年チベット・アムド地域では、チベット仏教の復興運動が顕著であり、また、民間信仰の変容も生じている。筆者はこれまで、ワォッコル村で最も盛大な収穫儀礼であるルロ祭など年中行事における祭祀儀礼について考察し、現地社会において重要視されている年中行事の細部が変化していることを明らかにしてきた。本稿で示すのは年中行事のみならず、個々人の人生儀礼にも変化が生じていることである。 全体として人生儀礼の変化とその影響については、以下の二点にまとめることができる。①現地の人生儀礼はチベット仏教復興運動の影響を受けており、儀礼時に提供される料理は殺生を控えた精進料理へと変化し、さらには成人式などにおける装飾品にも変化が生じていること、②儀礼の変容に伴い、これまで周辺のチベット族からは「ドルド」と呼ばれ、政府からは「土族」として認定されて来たワォッコル村の人々の意識において、一層チベット族としての民族意識が強くなっていることである。 こうした地域の事例に即して現状を提示し、分析することによって、チベット・アムド地域における文化変容の全貌への理解を深めることができる。 |