総研大 文化科学研究

論文要旨

東ニカラグア、ミスキート諸島海域の
木造アオウミガメ漁船(Dori Taraドゥーリ ターラ、大きな舟)

総合研究大学院大学 文化科学研究科 地域文化学専攻  高木  仁

キーワード:

東ニカラグア、ミスキート族、木造アオウミガメ漁船、ドゥーリ・ターラ(大きな舟)

本稿は、東ニカラグア自治州、ミスキート諸島海域の木造アオウミガメ漁船についての現地調査および研究結果を報告し、なぜ、このドゥーリ・ターラ(Dori Tara ミスキート語で大きな舟の意、以下同様)と呼ばれる木造船がこの地で展開しえたのかを議論する。とりわけドゥーリ・ターラの1)船体構造、2)建材、3)工具、4)建造法を明らかにし、近隣のカヌー・舟との比較を通して考察をおこなった。

その結果、ドゥーリ・ターラは、1)設計図・模型がなくとも、2)糸で直線や直角、平行線をとり(結果として直線的な印象をあたえ)、3)肋骨木は家の窓・ベランダ枠装飾用の木で巻き、廃材のような鉄筋で種々様々な角度と滑らかな曲線をとり、4)材木片からつくった木型をつかい、均一幅の肋骨木24列(肋骨48本・添え木50数本以上)をつくることで、堅強な木造船の生産を可能にしてきたことがわかった。

現代のドゥーリ・ターラとそれを用いたアオウミガメ漁は、ケイマン諸島のスクーナー船積載のキャットボートをただ模倣・改良し発展したわけではない。この海産物の競争が激しい地域において、村を維持するためには限られた工具と人材で強固な船を建造する工夫とその開発が必要である。ドゥーリ・ターラの原型の造船技術がこの地へ伝わってから約半世紀の間、海辺の村落では同型の船をいく艘も生産可能にするための造船上の工夫や技術が開発され、それらがこのドゥーリ・ターラ(大きな舟)をこの地に生んだ大きな要因であることが示唆される