総研大 文化科学研究

論文要旨

第17号(2021)

月を読む人びと

―マレーシア、サバ州都市近郊に暮らすドゥスンの自然利用―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 地域文化学専攻  西山 文愛

キーワード:

ボルネオ、サバ州、ドゥスン、月、自然利用、文化変容

本稿は、ボルネオ島サバ州の都市近郊に暮らす先住民ドゥスンの人たちの自然利用の場で観察された「月」とのかかわりを主題として扱う。それにより、都市化が進むドゥスン社会で今もなお実践されている自然活動の外観を描き出すことを本稿の目的としている。

ドゥスンの人びとは焼畑・水田耕作を中心に、熱帯林や川を利用した狩猟採集や漁労活動を実践することで、身近な自然資源を生活に利用してきた。このような自然資源を利用した生活は、熱帯雨林の環境改変、生業の変化、信仰の変化にともない変化が起きている。

本稿が対象としているKD集落は、ペナンパンの市街から車で約15分と都市への移動が容易な立地でありながら、集落はクロッカー山脈から流れる川の麓に位置し、その周囲は熱帯林に囲まれている。そのため、集落においても環境改変や生業、宗教の変化が起きている一方で、周囲の熱帯林や集落の周囲にある林一帯、川、畑において自然を利用した活動を今も積極的におこなっている。

さらに、筆者が2018年に実施した調査で、人々が自然を利用した活動の場において、月の満ち欠けを指針にしていたことが明らかになった。ドゥスンと月の関係についてはすでに1940年代にコタ・ブル地方のドゥスン社会を調査したイバンズの報告がある。そこで、本稿では筆者の調査結果とエバンスによるドゥスンと月の報告を比較検討することで、2000年代の当該社会における月の役割を検討する。それにより、近代的な営みと自然資源を利用した活動が絡み合う、現代ドゥスン社会の自然とのかかわりの一端を明らかにしたい。