第18号(2022)
国文学研究資料館 外来研究員 武居 雅子 キーワード: 信濃国松代真田家文書、志野流香道伝書、『香道八重垣』、志野流『諸国香道門人帳』、家元制度 本稿では、国文学研究資料館に寄託されている信濃国松代真田家文書に含まれる香道関係文書・史料の精査検証により、真田家における志野流香道受容の様相を具体的かつ実証的に明らかにした。 まず伝書八点について内容の紹介検討を行い、奥書を分析して成立年度や著者、相伝者等を考察した。伝書八点のうち、成立年、著者、相伝の経緯がわかるものは、『十種香表十組 香道之次第聞書』宝暦十二年 戸塚政徳・和田柔周、『十組香道次第聞書』宝暦十二年 戸塚政徳、『志野流香道秘伝』明和五年 篠原勝庸、『十種香次第聞書』安永六年 篠原勝庸である。天明期には成立したと考えられる志野流香道伝書『香道八重垣』の巻四~八(最終巻)も存在するが、巻一~三は見られない。 ところが、真田家文書に遺る九点の総包は、それぞれが『香道八重垣』巻一~三収載の組香に対応するものであり、そのいくつかに炷きがらが残存していた。それは実際にそれらの組香が行われた証左と考えられる。以上のことから、真田家では伝書による受容だけでなく、実技を以て志野流香道を享受していたことが窺えた。 またこれら伝書の内、『香道八重垣』『香道伝書』について、国会図書館所蔵の写本と比較したところ、国会本の欠落を補うことができた。具体的には、『香道八重垣』七巻「琴玉香」と『香道伝書巻十』「名香四季部分」である。 さらに、西山松之助『家元の研究』での志野流『諸国香道門人帳』に見られる家元制度確立の経緯を踏まえて、真田家の志野流香道享受が時期を同じくするものであり、近世中期の志野流香道伝播の状況と符合する可能性があることを提示した。なお、真田家所蔵の複数の伝書の書写に関わった篠原勝庸が、真田家における志野流香道の中間的宗匠の役割を担った可能性についても言及した。 |