総研大 文化科学研究

論文要旨

第18号(2022)

沖縄県女子師範学校・沖縄県立(第一)
高等女学校における女学生の「改名」

―女学生の「個」と「同化」―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 日本歴史研究専攻  西原 彰一

キーワード:

沖縄近現代史、沖縄県女子師範学校・沖縄県立第一高等女学校、ひめゆり、女学生、改名、同化、近代化、童名、ヤマト名

沖縄県女子師範学校・沖縄県立(第一)高等女学校女学生の「改名」とは、伝統的な個人名「童名(ワラビナー)」の日本的な名「ヤマト名(ヤマトナー)」への改変をさすが、1900年代初頭に始まり、大正年間には両校女学生の間で流行したことが、教員・女学生の語り等からみてとれる。この改名は、改変の方向が「ヤマト(日本)化」である以上、沖縄の同化、統合化という文脈上に配置される事象であることは間違いない。しかしながら、改名についての個々の女学生の語りからは、同化、統合化といった「大きな物語」に回収しきれない、それぞれの「近代」への憧憬や、「自身による「名付け」」=「名乗り」としての意味などの、いわば「小さな物語」をみて取ることができる。本稿では、同窓会誌・回想録、同窓会名簿等を資料として、そこから女学生の改名についての「大きな物語」、「小さな物語」を読むことにより改名の意味するところを探り、それを通して個人の名前のあり方を視座として琉球処分・併合以後の沖縄の歴史を読むことを試みた。そのために、まず沖縄の伝統的女子個人名「童名」についての概観を行い、「童名」が個別識別機能よりも継承されることを重視した存在であったこと、また琉球処分・併合直後も、女子個人名は男子のそれと比して変化の少ない存在であったことを指摘した。ついで、女学生の「改名」の苗床となった女子中等教育の展開過程、また県女師・県立(一)高女の沿革を整理し、両校の、女子中等教育におけるトップエンド、また近代とのコンタクトゾーンとしての位置づけを明らかにした。これらを踏まえて、教員・卒業生による語り等から、当事者にとっての県女師・県立(一)高女の教育・生活の実相を、さらに、彼女らの改名に係る語りを読み込み、また『県立一高女同窓会名簿』上の改名事例の整理を行い、それらを踏まえ、1900年代初頭の沖縄での女子個人名の変化と女学生の「改名」との関連を指摘した。さらに、女学生個々の「小さな物語」としての改名を、女学校教育が図らずも育んだ「個」の感覚において理解することで、改名が内胎した「名乗り」としての意味を指摘した。しかし、両校女学生たちは、沖縄の女子の典型では決してなく、本稿の大枠での目的:名前を視座として歴史を読むためには、出稼ぎ女工の名前の問題等へ射程を広げてゆくことが、今後大きな課題となることがより明瞭となった。