総研大 文化科学研究

論文要旨

第20号(2024)

三菱グループにおけるグループ横断的な
福利厚生組織の成立過程

―養和会と三菱倶楽部の組織統合の事例から―

総合研究大学院大学 文化科学研究科 日本歴史研究専攻 秦 文憲

キーワード:

企業集団、三菱、三菱グループ、福利厚生、財団法人、三菱倶楽部

本稿の課題は、三菱グループ全体にまたがる福利厚生の組織がどのような形を取り、三菱との関係がどのように変化していったのかという過程を明らかにすることである。具体的には、三菱グループの従業員の福利厚生組織であった養和会が再編される過程を、内部資料である「養和会議事録」などに基づいて分析を行った。養和会は戦前の三菱財閥における内部組織であった旧三菱倶楽部を起源とする財団法人であり、本稿ではこれと戦後の三菱グループ内に新たに創設された三菱倶楽部が合併を試み、再編される過程を明らかにした。

2.では3.以降の前提となる、財閥解体が三菱に与えた影響と、その後三菱グループが再結成する過程を整理し、養和会と、養和会と組織統合が行われることになる、三菱グループの内部組織である三菱倶楽部の変遷を概観した。3.では、一度は三菱グループから独立して活動できるような方針が取られていた養和会が、再び三菱グループとつながりを持ちはじめ、三菱倶楽部との組織統合が進められていく過程を整理していった。当初は養和会の財政的安定を目的として三菱倶楽部との組織統合が考えられていたが、財政が安定したことにより、養和会の前身であり、戦前・財閥時代に存在していた福利厚生組織である旧三菱倶楽部のような「あるべき姿に復帰」することが組織統合の要点となっていったことを示した。4.では養和会と三菱倶楽部の組織統合が成立し、三菱養和会となる過程を明らかにした。養和会は三菱の社長会である金曜会からの認可を受けて会名に「三菱」を冠することになり、三菱の福利厚生組織としての性質を強固なものとしたが、同時に財団法人という公益目的の組織でもあるという、相反する性質を持った組織となったことを明らかにした。

本稿では、養和会が三菱養和会として再編される過程を明らかにしたが、その中で三菱養和会への再編は、財閥時代の旧三菱倶楽部の姿に近づけることを目的として進められていったことが明らかになった。この背後には、少なくとも福利厚生組織のあり方は戦前の財閥時代、旧三菱倶楽部の形が正しく、「あるべき姿」であるという三菱グループとしてのアイデンティティをみることができる。そして、本稿が明らかにしてきた後の時代には、三菱養和会が三菱のための組織として活動することと、財団法人として公益目的の活動をすることをどう両立しようとしたのかを明らかにする必要があるという今後の課題を示した。