総研大 文化科学研究

論文要旨

第20号(2024)

切石積み箱式石棺と横穴式石室からみた
武射の地域動態

公益財団法人 群馬県埋蔵文化財調査事業団 今城 未知

キーワード:

古墳時代、常総地域、武射、箱式石棺、横穴式石室、構築技法、地域動態

古墳時代後期の常総地域では、中小規模墳の埋葬施設として箱式石棺が特徴的である。常総地域で箱式石棺や横穴式石室に使用される石材は、砂岩等の切石を用いたものと、筑波山に由来する雲母片岩を用いたものが多い。このうち、雲母片岩を用いた埋葬施設についてはその変遷や箱式石棺・横穴式石室との関連について研究が進んでおり、香取海を介した水上交通ネットワークの様相が明らかになってきている。一方で、切石積み箱式石棺については、その変遷や横穴式石室との関連性についての研究は少ない状況にある。

そこで本論では、武射を対象として、構築技法に着目して切石積み箱式石棺を整理、横穴式石室との共通性を検討し、埋葬施設から伺える地域社会動態を検討した。

箱式石棺の検討では、6世紀中葉から採用された箱式石棺は、大きくは側壁を1段で構成するものと2段以上で構成するものが確認できた。そのうち側壁が2段以上で構成される箱式石棺は、当初は側壁及び小口が多段・多石で構成され、不正形な床石を敷くが、6世紀末~7世紀初頭には、大型化した石材と切組手法を用いるものが見られ、床石も長方形に整形された石材が敷かれる。一部では片側壁を1段2石で2段に構成する石棺が登場することが分かった。

そして、横穴式石室の構築技法の検討も踏まえたところ、横穴式石室の先行研究で「姫塚タイプ」「駄ノ塚タイプ」(草野 2016)とされた石室の構築技法と箱式石棺の構築技法との密接な関連性が伺えた。このことから、横穴式石室に用いられた切石積みの技術や大型石材の加工・構築技術が中・小型墳に展開していく中で切石積み箱式石棺や小型の横穴式石室が創出されたことが想定できた。

さらに、埋葬施設形態やそこに用いられた技法の共有を地域社会の中で理解し、複数の小地域が相互に関係して形作られる武射の地域動態を復元した。具体的には、大型墳を築造し、それぞれに特徴的な横穴式石室を採用する小地域が複数あること、その中でも「姫塚タイプ」「駄ノ塚タイプ」(草野 2016)の横穴式石室を大型墳に採用する小地域は、各小地域の横穴式石室や箱式石棺に影響を与える存在であり、山田・宝馬古墳群が所在する小地域は、地理的環境や埋葬施設の形態・技法の共有から、太平洋に面する武射が内陸と交流する際のハブとなる小地域である可能性を示した。

本論での検討により、武射では埋葬施設の構築技法から伺える小地域の相互関係が6世紀末~7世紀初頭を皮切りに顕在化し、地域社会が変化していく様相が明らかになった。