総研大 文化科学研究

論文要旨

第20号(2024)

環境問題の「自分ごと」化を促す
メタバースミュージアム

―全球的思考を育み、地球のナラティブを共有できる場の構想―

総合研究大学院大学 先端学術院 総合地球環境学コース 重定 菜子

キーワード:

地球環境問題、全球的思考、メタバースミュージアム、持続可能性、AI技術、ブロックチェーン、多文化主義、異文化コミュニケーション、アート、参加者エンゲージメント

地球環境問題の進行は緊迫感を増しており、従来の科学調査、法制度改善、教育推進といったアプローチだけでなく、人々の全球的な視座に基づく行動変容が求められている。本研究では、この課題に対する一つの切り口として、「全球的思考」、すなわち地域や国境を超えて広範な視野を持てるよう人々に促す新しい形の社会デザイン、メタバースミュージアム「スペース・スマート・ミュージアム(SSM)」を使ったプロジェクトを提案する。本稿で述べる全球的思考とは、文化的な違いや、伝統的な知識、実践を無視することなく、先進国や一部の企業の利益などに傾倒しないように注意し、地球全体を俯瞰するような視点を持つ考え方である。現在のテクノロジーを活用することによって、参加者の思考を変革させうるプロジェクトが可能であると考えている。

SSMはブロックチェーンとVR技術を組み合わせ、AIによって言語障壁をなくした没入型のVRミュージアムである。さまざまな文化的背景を持つ参加者が、文化的景観やそれぞれで育まれたアートをバーチャルギャラリーで展示し、それぞれのオリジナリティやアイデンティティーを体感しながら、互いの文化や価値観を共有。対話を通じて共感し、共創が可能なプラットフォームである。そしてSSMは、「Overview Effect」―宇宙から地球を見下ろす経験―を再現し、参加者に地球全体を考慮に入れるきっかけを作る。この空間は国際宇宙ステーションと同じ軌道に設定され、リアルタイムで地球の映像を参加者と共有することで、全球的視座の育成を促進する。

このプロジェクトの目標は、先端技術を活用して全球的思考力を高め、環境問題への新たな取り組み方を検証することである。多くの人々が環境問題を「自分ごと」と捉えられるようになる基盤作りや、人々が参加意識や期待を共有できるようなストラテジーも考慮に入れる。最終的には、「自分たちの唯一の居場所=地球」という認識が新たな行動を生む可能性を追求し、持続可能な未来に寄与する新しい道を開く。

このプロジェクトは、全球的な視座を育み、平等な新しい社会デザインとして、地球環境問題解決に一石を投じることを目標とする。その構築および運用の過程と、得られる成果は、地球上の人々の持続可能な未来を構築する上での有用な貢献となる可能性がある。