第21号(2025)
総合研究大学院大学 先端学術院 日本歴史研究コース 橋本 侑大 キーワード: 経塚、経筒、外容器、経容器、近畿地方、三筋文、瓦質土器、地域性、階層差、編年 近畿は経塚の集中地域であり、早くから研究が行われてきた。従来の経塚研究の中心は、青銅製経筒やその銘文研究であったが、攪乱や盗掘を受けて遺跡の当初の姿が明らかにできない経塚が多くを占めている。遺物が散逸しており、研究の進む青銅製経筒が未発見な経塚においても、陶器系や土器系の容器が出土する経塚がみられる。本論はこうした陶器系・土器系経容器に焦点を当て、これらの経容器から経塚の造営実態や位置付けなどを明らかにすることを目的として検討を行ったものである。これまでの研究の状況から、地域性、時期(時代性)、階層差(造営主体)の3点の解明を中心に検討を行った。 まず、材質別に分布傾向を確認し、陶製経容器を多く使用する山城周辺と伊勢地域でも分布傾向が異なることを確認した。さらに、先学でも指摘された須恵器系容器を使用する播磨周辺、土師質容器が主体の丹後周辺の地域的傾向を再確認した。 その後、専用品経容器のうち、陶製経容器、瓦質経容器、石製経容器の考察を行った。陶製経容器では形態分類を行って属性を分析し、器高や口縁部形態に時期的な特徴が反映されることを確認した。時期的な変化の検討では、紀年銘を有する資料を中心に口径・底径と最大径の差を数値的に分析することで器形の変化を明らかにした。瓦質経容器は、製作技法によって4種類に分類でき土器工人と瓦工人による製作技法の差を明確にし、陶製との比較によって粗製品と捉えられてきた瓦質経容器にも瓦工人によって製作された精製品といえるものがあることを明らかにした。また、精製品の一群の出土地が山城周辺や紀伊を中心としていることから京周辺で用いられた可能性を指摘した。さらに、ミガキ調整が施された一群が経筒として使用されたことを指摘し、先学に指摘された青銅製経筒の模倣として使用されたことを裏付けた。これらの検討を総合して、陶製経容器(三筋文)、陶製経容器(無文)、瓦質経容器の消費地での編年を提示し、併せて階層差を含めた各容器の位置付けを提示した。 経塚からみた地域性の検討では、京周辺と東海西部の両地域と類似した地域性を示す伊勢地域についての検討を中心に行った。それぞれの地域と比較検証し、伊勢の中心部が類似した傾向を示す京周辺と東海西部の経塚とは異なる独自の地域性を持つことを明らかにした。こうしたことから、近畿の経塚は「京の経塚」、「伊勢の地域」、「播州の経塚」、「三丹の経塚」の4つの地域に分けられることが明らかになった。 以上の検討によって、陶器系・土器系経容器から遺跡の造営実態や位置付けが可能となった。 |