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学生派遣事業 研究成果レポート

喬旦加布(地域文化学専攻)

1.事業実施の目的

①第13回目の国際チベット学会での研究発表
②博士論文執筆ためのフィールド調査

2.実施場所

①モンゴル国立大学 ②中国・青海省黄南蔵族自治州

3.実施期日

平成25年7月19日(土)から8月26日(月)

4.成果報告

●事業の概要

 このたび、私は総研大の学生海外派遣事業の支援を受けて最初はモンゴル国立大学で開催された第13回目の国際チベット学会(13th International Association for Tibetan Studies  21st July to Saturday 27th July 2013  Ulan Bator  Mongolian)に参加し、これまで行って来たルロ祭の研究成果について研究発表を行った。その後、調査地の中国青海省黄南蔵族自治州同仁県に入り、ルロ祭を中心にフィールド調査を行った。

●学会発表について

1.国際チベット学会について
 平成25年7月21日から27日にかけてモンゴル国立大学で開催された第13回目の国際チベット学会に参加した。
 モンゴル国に訪れたのは初めて、私にとって日本以外の二番目の訪問国でもある。まず、モンゴル国は日本と違って発展途上国であるため、経済的にあまり進んでおらず、道路などのインフラが遅れていると思う。自然環境と日常生活、それに宗教的にはチベットとよく似てるところが多い。チベット仏教の影響が強かったため、首都ウランバートルでも何ヶ所かチベット仏教の僧院が建てられている。

 
写真1 会議の集合写真とセッションの様子

 一週間あまりの間に36カ国から460人あまりのチベット学研究者が集合した。チベット仏教学および言語学、哲学、歴史学、文学、社会学、文化人類学など多岐にわたって学術的交流を行った。この学会は通常3年に一回、開催地を移動しつつ開かれている。第1回目が1977年にチューリヒ、今回の学会では、私は主に二日間Session 16: Folk Religion and Local Traditionsの座長を担当し、Anthropological research on the Ruro Festival in Wokkoru village of Repukon at Amdo areaというテーマで研究発表した。人類学の視点から発表したものが少なかったためか好評であった。今回の学会は私にとって初めての学会発表であり、座長を担当したのも初めての体験であった。また、学会では中国国内や海外からの各チベット研究機関や大学などの研究者らと深く交流できた。

●調査について

2.フィールド調査 について
 学会の後、急いで中国青海省黄南チベット族自治州同仁県に入り、ワォッコル村におけるルロ祭のフィールド調査を行った。


写真2 調査の地理的位置とワォッコル村

 旧暦6月はチベットアムド地域では小麦など穀物の収穫期であるため、ルロ祭は中国語で「六月会」、あるいは「収穫祭」とも言われる。この時期、同仁県隆務川中域のワォッコル村などでは、最も伝統的なルロ祭という祭祀儀礼が行われる。これらの村は、ワォッコル村を中核として形成されており、同じ骨系を持つと考えられている地縁集団である。具体的には、ワォッコル村と、隣接するハラバトル村とガセドゥ村であり、この三村の崇拝対象となる諸神は兄弟関係を持つ。祭には、7世紀から8世紀にかけての唐と吐蕃間の戦争、あるいは部落間の抗争、村の由来と歴史、生産と宗教、人々の世界観などが反映されている。祭りは、最初の唐と吐蕃会盟の祝福行事に始まり、今日に至るまで歴史の中で変化しながら維持されてきたと考えられる。

   
写真3ワォッコル村のルロ祭

 ところが、今回のフィールド調査では、外部の原因として政府の観光化政策や村人出稼ぎなどによりルロ祭への参加者が減少するとともに、祭事内容も現代的な創作舞踊が多数取り入れられて、本来のルロ祭の伝統的な祭事内容が大きく変容していることが一層明らかとなった。本来は神々を中心として行って来たルロ祭りの意義が変化しつつあることが窺える。
 ワォッコル村のルロ祭は例年通りに旧暦の6月21日から始まり、6月24日に終了した。インフォーマントでもある私は今年の祭りには踊り手として参加せず、一人の研究調査者としてのルロ祭の最初から最後までのプロセスを時系列にビデオカメラを使って映像を撮った。
 特に今回のフィールド調査では、外部の原因だけではなく内部の原因として村出身の活仏(高僧)が祭に関与し、慈悲の仏説が原因とし従来のルロ祭の際、一頭の山羊を供養する儀礼を辞めさせ、代わりに大麦粉(チベット語でツァンパ)とバターで作られた山羊の人形を供養していることも観察できた。祭の後、ワォッコル村の祖先の由来について村の老人たちへのインタービューと同仁県の土族の歴史などについての文献調査も行った。

●本事業の実施によって得られた成果

 総研大の学生海外派遣事業を受け、私にとって初めての国際学会発表と初めての座長を担当し、良い経験を積むことができた。また、チベット学研究の前線で活躍している世界各国、各地域のチベット学研究者の各分野でも研究内容と水準がわかり、同時に自分の発表に対し貴重なコメントと好評を得ることができた。私にとって今後の研究の原動力になると思う。 また、ルロ祭のフィールド調査を経て今後の博士論文を書くための予備調査ができた。とくに市場化と観光事業化によって、祭の内容の変化と担い手の減少は予想を超えるほどの程度に達していた。

●本事業について

 フィールド調査を重視する文化人類学を専攻する院生にとって海外調査や学会発表などの活動は非常に重要であるが、旅費など費用負担の問題が大きい。今回、総研大学生海外派遣事業の援助を受けてフィールド調査と学会発表ができたのは大変嬉しい。今後の研究の進展にも関わるため、この事業は非常に有益な事業であると痛感した。