HOME > 平成25年度活動状況 > 学生派遣事業 > 研究成果レポート

学生派遣事業 研究成果レポート

金セッピョル(地域文化学専攻)

1.事業実施の目的

成果発表

2.実施場所

宮崎国際大学

3.実施期日

平成25年4月20日(土)から4月21日(日)

4.成果報告

●事業の概要

 Anthropology of Japan in Japanは、日本に滞在しながら日本を研究対象とする外国人類学者たちが集まる学会で、外からの眼差しを伺える場である。今回の大会で興味深かったセッションは、原発事故後の日本社会の変化に注目した「Post Nuclear Narratives」だった。
 Sascha Klingerさんは、"’From Fukushima To Miyazaki’ - A Film Introducing Refugees from the Nuclear Accident”という発表で、東北地方および首都圏の各地から宮崎県に避難してきた人たちを納めた人類学的映像を上映した。映像に描かれている人たちは国の指定避難区域に居住してはいないが、自分たちの判断で自主避難してきた母親たちである。宮崎にはそのような人たちの生活を支援する市民団体があり、取材はその団体を中心に行われていた。
 女性たちはさまざまな事情を抱えている。まずは経済的問題である。夫が東北や首都圏で働いている場合は、宮崎で再就職しないといけないが、それも容易ではない。大概は夫がそのまま仕事を続け、宮崎に生活費を送るという形になっているが、経済的負担が大きい。
 最も大きい問題は、家族がばらばらになることと、家族の理解が得られないことである。映像に登場した7組の家族の中で、夫の理解を得て来ている母親は3人に過ぎなかった。その中で2人は夫と一緒に避難してきていて、1人は東京に夫が残っている状況である。
 この映像を見ていたら「彼らはそのような状況に耐えながら避難する必要があるのか?」という疑問が浮かんできた。それは、Sascha Klingerさんも暗黙中に問いかけているものでもある。
 しかし、このような問いに客観的に答えることは人類学的映像で試みることではない。Sascha Klingerさんも、避難の是非を問うよりは、観客にそのような問いをかけながら、一歩引いて自主補難民たちの生活を映し出していた。むしろSascha Klingerさんは、人々が市民団体を頼りにして避難してきていることに注目し、日本社会で市民団体の成長に注目しようとした。
 市民団体の役割の成長に注目することも良いが、私の意見としては、市民団体がどのような役割を果たしているかを、家族の中で見てみた方がより発展的ではないかと思った。母親たちは市民団体の中で、自分たちの選択を認めてくれない家族の非難に耐えられるような知識と理解を得ようとしている。また、市民団体での出会いを通して、新たなネットワークを築こうとする。しかし、市民団体はどこまで家族の代わりになれるのだろうか?
 日本社会での、市民団体と家族の役割の変化は、私の研究テーマとも関わっている。これまで家族の役割の範囲とされた死と葬送は、新たな葬送の形を提唱する市民団体の出現によって、変化を迎えている。このような共通部分があるため、Sascha Klingerさんの研究に、今後も注目したいと思う。

●学会発表について

・発表要旨
 本発表の目的は、NPO法人「葬送の自由をすすめる会」(以下、「すすめる会」)の世代交替が、日本社会でもつ意味を明らかにすることである。
 「すすめる会」は、「日本には焼骨の埋葬/埋蔵といった方法以外の、葬法の選択の自由がない」ということを問題意識として1991年に立ち上がり、その実践として焼骨を海、山などに撒く「自然葬」を推進してきた団体である。それが、2013年1月を起点に会長が交替し、少しずつではあるが方向転換が始まろうとしている。その内容は、設立してから20年以上が経った現在、会員層でも見られるようになった世代の移り変わりとも相応しているように思われる。
 本発表では、自然葬に関する認識が広まったと判断される2004年までに入会した会員を自然葬第1世代、2005年以降に入会した会員および自然葬第1世代の子ども世代を第2世代と定義する。そしてこの世代間の考え方の移り変わりを日本社会の文脈の中で考察すると同時に、「すすめる会」新体制の方向性を展望してみる。
・コメント

①新興宗教と同じく、「第二世代」という視点は重要である。引き続き、長年にわたってワッチしていく必要がある。

②世代区分の基準をより明確にすべき。会員の年齢も重要であるが、どの時期に入会したかも大事である。

●本事業の実施によって得られた成果

 博士論文のために構想した枠組みを適用した初めての発表であったが、好評を得ることができた。今後この枠組みを発展させて博士論文の執筆に取り組みたい。

●本事業について

 有益な事業である。