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学生派遣事業 研究成果レポート

邱君妮(比較文化学専攻)

1.事業実施の目的

日本と台湾における歴史的空間・建築物の保存・活用に関する文献収集及び事例予備調査

2.実施場所

日本東京、台湾台北市・新北市

3.実施期日

平成25年8月8日(木)から9月13日(金)

4.成果報告

●事業の概要

 博士論文研究を行うため、日本と台湾における歴史的空間・建築物の保存・活用に関する先行研究の文献調査・収集及び事例の予備調査を行うことである。
【研究背景】
 歴史的に、日本と台湾の博物館事業の発展や歴史的空間・建築物の保存・活用に関する制度は関わりの深いものとなっている。たとえば、国立台湾博物館は日本統治時代の1908年に台湾総督府の博物館として設立された台湾最古の博物館である。台湾における歴史的環境保存制度の契機は、日本統治時代に制定された「史蹟名勝天然記念物保存法」である。戦後、1982年に台湾政府によって制定された「文化資産保存法」は現存の保全制度の根拠法であり、同法制定にあたり、日本の「文化財保護法」は重要な参考事例とされた。
 また、この十年間、台湾の博物館政策の中心である「地方文化館計画」も日本の町づくりやまちかどミュジーアムなどのあり方をもとにして取り組みを開始した。ところが、異なる政策環境と社会状況の変遷によって、それぞれ独自の特徴と課題が生じている。
【実施内容】
 今後、博士論文研究を行うため、具体的には、調査を下記の通り実施した。
(1)8月8日から8月14日まで、日本の東京国会図書館において、日本における歴史的空間・建築物の保存・活用、博物館と文化財に関する政策・法令に関する文献資料の調査収集を行った。そして、歴史的空間・建築物を保存し、博物館機能をもたせて活用する事例調査として、博物館事業の発展が一番活発な東京を日本モデルの参照として、野外博物館の好例である江戸東京たてもの園と府中市郷土の森博物館の調査を実施した。
 江戸東京たてもの園は、江戸・東京の歴史的建築物を移築保存し展示する目的で東京都小金井市の都立小金井公園内に設置され、東京都墨田区にある東京都江戸東京博物館の分館である。運営組織としては、指定管理者制度により、公益財団法人東京都歴史文化財団が管理・運営を行っている。一方、府中市郷土の森博物館は、東京都府中市にある、郷土資料を展示する本館を中核として、府中市域の江戸中期から昭和初期の建築物を移築復元・保存、建築物を中心とした野外博物館である。運営組織としては、指定管理者制度により、公益財団法人府中文化振興財団が管理・運営を行っている。
 江戸東京たてもの園と府中市郷土の森博物館の調査を行うことによって、高い文化的価値がありながら現地保存が困難となる場合、歴史的空間・建築物を移築復元しての展示の仕方、また指定管理者という博物館事業の取り組みを調査することができた。
(2)8月15日から8月30日まで、台湾の国家図書館にて、台湾における、歴史的空間・建築物の保存・活用、博物館と文化財に関する政策・法令について、文献調査・収集を行った。そして、台北市の北投区にある北投文物館と北投温泉博物館を中心として、訪問調査を行った。その他の事例、台北市内中山区にある蔡瑞月舞蹈研究社、台北故事館、SPOT台北の家、または最新の松山文化創造産業園区も含めて調査を行った。これらの1910~1930年代に建てられた事例調査により、日本の野外博物館と異なり、台湾は現地保存を中心として、歴史的空間・建築物を修復しての展示及び活用の仕方、また市政府文化局により委託された財団や個人、市政府文化局と地方有識者との共同管理による博物館事業の取り組みを調査することができた。
(3)8月31日から9月6日まで、調査の後半には、台湾新北市淡水区にある新北市立淡水古蹟博物館園区を調査した。この事例は台北市内における単体の歴史的空間・建築物の発展策と異なり、淡水区にある16世紀から19世紀に建てられた歴史的空間・建築物群の保存・活用を通じて、地域振興策(社区総体栄営造)文化観光に力を強く入れて発展している。将来は全体地域をまちかどミュジーアムとして、さらに整備していく。最後に、台湾の国会図書館において、事例に関する情報収集(補足)を実施した。

●本事業の実施によって得られた成果

 本事業の実施によって得られた成果は、まず、この文献調査・収集により、日本と台湾における、歴史的空間・建築物の保存・活用に関する博物館研究また実践の動向の相違点がわかったことである。特に台湾における本研究に関する先行研究は74本の論文や参考文献を収集することができた。調査により得られたデータは、博士論文の台湾における事例選択作業に役立つだけでなく、それに関連する学内外での研究発表に盛り込むことができる。
 そのほか、申請者が今後、博物館制度について、台湾における委託経営と日本における指定管理者制度、PFI(Private Finance Initiative)の運営の相違点と類似点を比較し、評価する論文を執筆することにも今回の調査成果を用いることができ、今後博物館経営に関する国際学術会議で発表する予定である。

●本事業について

 文化科学研究科リサーチ・トレーニング事業は、学生にとって、博士論文執筆のために国内や海外での調査を行う上で、必要な交通費や宿泊費が支給され、大変助かったと思う。また、今後さらに博士論文の研究を進めていく上において、大変な刺激となった。このような貴重な機会を与えていただいた事を感謝する。