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学生派遣事業 研究成果レポート

宇佐美智之 (国際日本研究専攻)
丘陵地における放牧の様子発掘現場での記録作業遺跡周辺の河川と植生

1.事業実施の目的

ウズベキスタン・サマルカンド近郊に所在する都市遺跡ならびにその近隣環境を主な対象として、考古学的調査・研究を実施すること

2.実施場所

ウズベキスタン・サマルカンド

3.実施期日

平成25年9月1日(日)から9月30日(月)

4.成果報告

●事業の概要

 本事業では、ウズベキスタン・サマルカンド州に所在する都市遺跡ならびにその周辺地域を主な対象として、現地調査・研究を実施した。このこころみは、日本をふくむ東北アジア沿岸地域と、ユーラシア内陸地域である中央アジアを同時的に視野に入れ、考古学の立場から両世界にかんする研究をおこなっていこうという考え方にもとづいている。一方についての分析や検討を、他方についての理解を深めることに役立てていくことで、より実りの多い成果をえることにつなげられると考える。
 中央アジアのなかでも、ウズベキスタンのサマルカンド(またはそれをふくむゼラフシャン川流域)は、先史以来、さまざまな面で大きな役割を果たしてきた地である。一般的にいうと、この地については、東西シルクロード交流をめぐる交通の要所として栄えた側面に関心が向けられやすいが、注目すべきは決してそれだけではない。そこでは、北方の遊牧民や南方の農耕(定住)民、そして多様な事物が独自の仕方で結びつき、それらが渾然一体となって、豊かな小世界がつくりだされてきたのである。中央アジアまたは広くユーラシアの過去について考えるときにも、この地のあり方をよりよく理解していくことが重要となる。
 このような観点から、サマルカンドの代表的な都市遺跡とその周辺地域に焦点をあて、①当該遺跡に関連する資料の収集や、②リモートセンシング技術の利用にもとづく踏査(土地利用・植生・河川などの評価)、③地形データの取得、④これまでに実施されてきた発掘成果の確認・整理と、出土物の計測、そして①~④をつうじて取得したデータを効果的にマネジメントするための⑤データベースの構築、などの作業をおこなった。なお、当該遺跡の発掘資料は、ウズベキスタン科学アカデミー考古学研究所(Institute of Archaeology of the Academy of Science of the Republic of Uzbekistan)に所蔵されているものである。所長のアムリディン氏をはじめ、当研究所の方々には、資料収集・調査以外の場面でも多くの助力を頂いた。
 また、当該遺跡周辺の氾濫原や丘陵地における放牧/栽培などの活動実態についても、あわせて調査(および資料収集)をおこなう機会をえた。過去の人々の生活のあり方を考えるうえでも、それは今後の研究において、有益な手がかりを提供しうるものであると思われる。
 以上が本事業の大まかな内容であるが、実際に現地での活動をすすめるにあたって、「ドキュメンテーション」(Archaeological Documentation)をめぐる経験的・理論的な問題にも重点をおいた。これは、先に述べた①~⑤のひとつひとつの作業とも、密接に関連することである。さまざまな活動の実践をつうじて、諸問題にたいする検討をかさねることに努めた。

●本事業の実施によって得られた成果

 本事業による成果のひとつは、当該遺跡の近隣環境にかんする詳細なデータをえられたことである。遺跡と環境のかかわりあい方を理解し、内陸地域の景観を探るねらいがある。一般的な写真撮影による記録だけではなく、もちはこび可能な高精度GPSなどの機器をもちいて、地形図(等高線図)を作成した。また、事前に実施した衛星画像解析の結果にもとづいて、植生や河川、土地利用などの状況について評価をおこなった。日本国内とは状況がことなり、本調査対象地においては、今後こころみていく分析に耐えうるような、きめの細かなデータが十分に整備されているわけではない。こうした事情からも、本調査でえられた結果が将来的に有益なものになるといえる。
 くわえて、上記した「ドキュメンテーション」にかんする検討は、申請者の今後の研究活動においてきわめて重要な意味をもつものである。過去についてだけでなく、過去を知ろうとするわたしたちじしんのあり方についても、実際的な調査活動をつうじて考えをめぐらせることができた。より詳細な検討をつみかさね、博士論文のなかでそれを活かしていきたい。

●本事業について

 多くの研究において、デスクワークとフィールドワーク(または実験など)の関係は、一方の活動が他方の活動を支えるようなものであろう。その関係的な効果が、より実りの多い研究成果につながっていく。ただ、フィールドワークに伴う経費などの実際的な問題は、そのような関係そのものを分断しうるし、自らがおこなうべき調査・研究と、現実的におこなえる調査・研究のあいだには、どうしても溝ができやすい。もちろん個々人の努力が前提となることを忘れてはならないが、本事業による支援は、そうした問題を解決に向かわせてくれる、非常に貴重なものであると考える。