国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





一戸 渉(日本文学研究専攻)
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  近世期学芸史研究に関する文献資料調査
2.実施場所
  内藤記念くすり博物館、九州大学、広島大学、京都市寺院各所、大阪中之島図書館、京都大学、天理図書館
3.実施期日
  平成18年8月29日(火) ~ 平成18年9月8日(金)
4.事業の概要
   平成18年8月29日(火曜日)から同年9月8日(金曜日)の10日間にかけ、総研大イニシアティブ事業、国内フィールドワーク派遣事業として、国内各地の所蔵機関において近世学芸史研究を中心とする近世期学芸史研究のための文献資料調査、及び京都市内各所において実地踏査をおこなった。以下、本事業においておこなった活動内容について、時系列を追って報告をおこなう。

8月29日、岐阜県各務原市の内藤記念くすり博物館において、近世期の上方和学資料の調査をおこなった。閲覧点数は4点である。それぞれにおいて、書誌データの採取、及び内容における検討をおこなった。

8月30日から8月31日の2日間にわたり、続いて九州大学付属図書館、及び九州大学文学部図書室において、近世期の上方漢学者の自筆詠草などの資料類、及び上方の和学者による和歌詠草、古典注釈書、版本への書き入れ本などの資料についての調査をおこなった。閲覧点数は10点。それぞれについて、書誌データの採取及び内容における検討をおこない、うち一点に関して、複写手続きをおこなった。

9月1日、広島大学付属図書館において、伴蒿蹊関係資料をはじめとする近世期上方和学資料の調査をおこなった。閲覧点数は7点。それぞれについて書誌データを採取するとともに、数点の資料については自己撮影をおこなった。

9月2日、大阪府立中之島図書館において、慈延、龍草廬、並河寒泉などをはじめとする近世中後期の上方文人に関係する学芸資料の調査をおこなった。閲覧点数は、6点。それぞれについて、書誌データの採取及び内容における検討をおこなった。
9月3日、京都市内寺院各所において、近世期文人研究のための史跡及び墓碑の実地調査をおこなった。調査地は、高台寺、清閑寺などである。

9月4日から9月5日の2日間にわたり、京都大学付属図書館、及び京都大学文学研究科図書館において、龍草廬、橋本経亮、岡崎信好関係資料など、近世期上方和学研究資料の調査をおこなった。閲覧点数は7点。それぞれについて、書誌データの採取及び内容における検討をおこなった。

9月6日から9月8日の3日間にわたり、天理大学付属天理図書館において、伊藤東所、荷田信美、上田秋成などに関係する近世期の上方学芸資料について調査をおこなった。閲覧点数は6点。それぞれについて書誌データを採取するとともに、そのうち2点の資料については複写撮影の申請をおこなった。
5.本事業の実施によって得られた成果
 本調査は、近世期上方学芸に関する研究のための基礎的作業である文献資料調査及び史跡調査を目的としたものであり、今回のフィールドワークにおいて披見した文献資料及び史跡は、その目的に大いに資するところがあるものである。本事業を実施したことによって期待される成果としては、まず一つには、報告者の研究活動上において取り上げる予定である近世期京阪地方のさまざまな和学者、漢学者、文人、より具体的には上田秋成、竜草廬、伊藤東所、岡崎信好、小沢蘆庵、伴蒿蹊、橋本経亮、荷田信美、荷田信郷、川口好和などといった諸人物の学芸活動についてのより一層の具体化が挙げられる。具体的な書名などについては余りに煩瑣となるため省略するが、本事業において行った、これらの人物に関する当時の文献資料及び墓碑・史跡などの調査を通じて、その学芸上の交流を、人的・物的・知的などの各側面から明らかにすることが、今後十分に期待される。
 第二に、近世期における和学関連書の流通と受容についての知見の提示が挙げられる。報告者はすでに、平成十七年度日本近世文学会秋季大会(会場:奈良女子大学)における口頭での研究発表「上田秋成の土佐日記注釈と「海賊」」において、写本の形式において流通し、受容された上田秋成の「土佐日記」に関する注釈書の諸伝本について検討を試みているが、今回の調査によって新たに数点の関係諸資料を見出すことができたことをここに報告しておきたい。今回の調査を踏まえ、近日中に、近世期における上田秋成の「土佐日記」注釈書の受容・流通状況の全体像を把握することをめざした研究論文をまとめる予定である。このように、報告者の博士論文での研究に関連する新たな資料を発見しえたことは、今回のフィールドワークの大きな成果の一つであったといえる。更に、以前より調査を進めているこれら「土佐日記」に加えて、今回は、近世期の和学者たちにとって最も重要な古典の一つであった「万葉集」の諸注釈書の調査を行う機会も得ることができた。今後、書物の流通状況に関する考察に加え、こうした近世期における古典注釈史の観点からも考察を進めてゆく上で、今回の調査は極めて意義あるものであったといえる。

 以上に述べてきたように、本事業において行った文献資料調査及び史跡調査によって、報告者の研究活動は、より一層の進行が期待される。その成果については、今後、積極的に研究発表をおこなってゆきたいと考えている。

6.本事業について
    本事業のような、学生個人の研究活動についての補助制度の存在は、この上なく有り難いものであると感じている。ことは文学研究のみの問題ではないが、研究活動のための資料調査・フィールドワークに当たっては、全て自費で賄わなければならない現状があり、研究活動の遂行上、金銭面において困難なことが極めて多い。
 イニシアティブ事業自体は本年度にて終了と聞いているが、次年度以降も何らかの形で、こうした他大学にはない特色ある事業を継続していただくことを、切に願っている。

 
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