専攻専門科目履修等派遣事業 研究成果レポート





松岡葉月(日本歴史研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【a.他専攻活用事業】
  博物館教育、および博物館教育評価に関する動向調査
2.実施場所
  国立民族学博物館
3.実施期日
  平成18年7月31日(月)
4.事業の概要
 

 国立民族学博物館を活用した国際理解教育の実践事例の紹介やワークショップを通して、国際理解教育における博学連携の意義や可能性について考えた。国立民族学博物館は、異文化理解を図ることを目的とし、博物館独自の教育プログラム、学校との連携を図るプログラム、貸し出し用の展示ツールなど、多方面にわたり教育プログラムの研究開発を行なっている。調査ではこれらの教育プログラムの実施動向について、博物館の教育担当者、学校の教員と意見交換を行った。これをもとに、評価方法も踏まえて今後の博物館教育のあり方を検討した。今回は「博学連携教員研修ワークショップ」の全体会討論や、総合研究大学院大学の吉田憲司教官の主催するワークショップに参加した。研究会の内容は以下の通りである。

<1部>講演とミュージアムツアー
開会挨拶  (国立民族学博物館館長:松園万亀雄・ 日本国際理解教育学会会長:米田伸次)
「国際理解教育における博学連携の意義と可能性」 (中央大学:森茂岳雄)
「仮面を使った教材開発の試み 博学連携事例」 (国立歴史民俗博物館:佐藤優香・茨木市立葦原小学校:八代健志)
「経験のパブリッシング」(同志社女子大学:上田信行)
「民博の教員による仮面ギャラリートーク」(国立民族学博物館:中牧弘允・林勲男・吉田憲司)

<第2部> ワークショップ
みんぱくでパーム油と出会ったら!?
  なりきりフォルクローレ
  仮面をつくって語って国際理解
  ケータイで「みんぱく異文化発見カルタ」づくり
  砂絵(点描画)でシンボリズム
  博物館を使った授業づくり ─ マイ・カリキュラムを編もう ─
分科会からの報告

5.本事業の実施によって得られた成果
   博士論文研究では、構成主義学習理論の立場から、歴史系博物館において、利用者がもっているもの(経験、能力、興味・関心)とのつながりから、展示と関わり易くする学習プログラムについて評価を行ない、利用者の主体的学びを促す博物館教育のあり方について研究を行っている。
  異文化理解教育においても、構成主義の理論が援用されて、学びの場のデザインが試みられており、上田信行氏によってワークショップが紹介された。上田氏のワークショップでは、他者のもつ社会的文脈を理解し、コミュニケーションによって他者の文化を理解する協調学習の手法が取り入れられていた。ワークショップの学びでは、異文化に関連したモノづくりを通して、モノにこめられた他者の願いを認識していく。そして、モノをつくった者同士が、そのモノに込められた願いを語ることで、他者の文化を共有することを認識した。
  また、国立民族学博物館は異文化理解教育の立場から、学校教育と連携した多くの教材開発、実践研究が行われている。特徴的なのは、近年、現れてきた「フォーラムとしての博物館」(吉田憲司1999)という視点に立ち、博物館での学びの環境と方法のデザインが模索されていることである。この視点は、単に博物館が学習の素材を提供するだけの場所でなく、意見交換、実験、ワークショップを通した他者とのコミュニケーションの場としての可能性や、新しい知識観や学習観を獲得する場としての可能性を広げるものである。そうした意味で、民博の学習支援事業は多くの可能性を持ち合わせている。また、学習プログラム作りにおいては、民博の展示を設計した研究者、及び民博の学習支援体制と現場教師の三者の連携方法が今後の課題としてあげられている。

  第2部で参加した吉田憲司先生のワークショップでは、自分の願いを仮面で表現した。製作に先立ち、民博が所蔵するアフリカの仮面を幾つか紹介していただき、仮面の素材、コンテクストを学んだ。仮面は芸術的な資料というよりは、人間の日常生活の喜怒哀楽と密着しており、表情も実に豊かである。本物のよい資料に触れ、おもしろさを理解することで、仮面作りの動機付けができた。
  ワークショップは、講師として現職の教員が立会い、授業の中でどのように取り扱っているか事例紹介もしていただいた。異文化に関する授業は、教科では図工、社会科、時間割では総合的な学習の時間が主である。しかし、捉えさせたい概念は共通しており、異質なものを受容する態度形成と、他者とのつながりを認識する二点につきると考える。この概念を浸透させる手だてとしてワークショップが展開されていることが理解できた。

  ワークショップの学びの過程では、個人の知識は、個人の置かれた状況に左右される。異文化を学ぶ環境において、今後、学び手が学びの環境をどのように取り入れていくか、適応していくか議論されるところである。博物館は、学び手にとって一つの直接的な環境であり、博物館という文化的文脈にそって知識が構成される特質がある。これらの観点から、博物館で何をどう学ぶかという実態を分析し、学習プログラムの評価方法に繋げていきたい。
 
6.本事業について
   同じ専攻科に所属していても、本学の場合、各専攻が全国に分散している地理的条件のため、気軽に趣き、他専攻研究機関を活用することができませんでした。
  本事業によって、今回、初めて国立民族学博物館に訪問することができ、有意義な研修会にも参加させていただくことができました。専攻間の交流を盛んにするために、今後も、他専攻活用事業が継続されることを希望します。

 
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