国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート



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三野行徳(日本歴史研究専攻) | |
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】 | |
京都府立総合資料館における、維新期幕臣関連史料の調査収集 | |
2.実施場所 | |
京都府立総合資料館 | |
3.実施期日 | |
平成18年9月3日(日) から 平成18年9月5日(火) | |
4.事業の概要 | |
今回の調査では,京都府立総合資料館において、同館所蔵および、同館が情報収集している、維新期の幕臣(旗本・御家人)関連史料の調査および、重要史料の複写収集を行った。 |
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5.本事業の実施によって得られた成果 | |
私は、「19世紀における国家官僚組織と構成員(家)の検討」をテーマに、江戸幕府及びその官僚である幕臣(旗本・御家人)を対象に研究を行っている。具体的には、個別の旗本や御家人の「家」(当主-家族(後継候補)-家臣団-屋敷/知行地)が、江戸時代どのように構成され、どのような関係でなりたっており、明治維新を境にそれがいかに解体・変容・連続していくのかを検討することが課題となる。 以上の研究においては、幕臣の家史料や、幕府に集められた履歴情報等が不可欠であるが、残念ながら幕臣の史料・幕府の史料ともに、その残存状況は芳しくない。そのため、史料不足を補完するためにも,旧知行地に残された史料や、維新後、幕府の地方役所より府県に引き継がれた史料の調査が不可欠となる。 以上のような状況の中で、今回調査した京都府立総合資料館では2つの面で大きなメリットがあった。それは、①京都府域の領主別史料所在情報が整理されている、②行政史料として所蔵されている史料に、維新期の史料が多くあり、京都にいた元幕臣の情報を記す史料が存在する可能性がある、ということである。 以上の事前情報に基づき、同館では事業概要に記したとおりの調査を行った。 ① については、京都府域に多く旗本領が存在し、その関連史料がある程度地域に残されており、今後の調査により研究の可能性があること、その具体的な史料群のめどがついた点が今回の成果で、具体的な調査は今後の課題である。 ② については、複写請求後、史料が大部であったことから撮影に時間がかかり、納品されてから間も無いため、分析は今後の課題となるが、同史料には非常に多くの情報が記されており、そのうち大部分を元幕臣が占めていることが確認され、大きな可能性を持っていると思われる。 以上、具体的な成果は今後の課題となるが、その方向性を博士論文との関連から提示しておきたい。 ① については、維新期の、旗本が領主権を失う危機に直面したさいに、領民、特に地域リーダーと呼ばれる層はいかに対応したのかを検討するべく、史料調査を継続したい。 ② については、「卒明細短冊」の分析により、維新以前にどれだけの武士、またどれだけの幕臣が京都にいたのかを復元し、それらの幕臣が、鳥羽伏見戦前後にいかに行動し、結果、どのようにして維新後京都に居住することとなったのかを類型化し、維新期の幕臣の行動を検討する予定である。また、そのうち、京都に居住するのみならず、軍隊に編成されたり、官僚となるパターンが史料を瞥見しただけでも散見される。このような、江戸時代の職務(官僚・軍人)が、政権交代後も同一人物によって引き継がれることの意味から、明治維新と社会変動を検討する予定である。 以上の2点につき、これから調査及び分析を行う。②に関しては、史料を入手することができたため、早速分析に取りかかりたい。 |
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6.本事業について | |
本事業のメリットは2点あると考えている。 一つは、個人的に行うには資金的に困難な研究に取り組む機会が得られることで、遠方への調査や、私費では購入(複写・撮影)困難な史料・資料を用いた研究を行うことが可能となる。当然、このような研究には、その普遍性や社会還元へ向けた計画(ハードル)が求められるが、それはむしろ当然であり、それが具体的な成果となる段階で、論集や報告会などによって成果を形として残すことを義務づけてもよいと思う。ただ、利用してみて感じたことだが、その使途には、HP上の案内を読んだだけでは良く理解できない基準があるようでもあり、その点で、とまどうことがあった。何にどのように使えて、何には何故使えないのか、その点のある程度はっきりした基準がほしい。 メリットのもう一つは、基盤期間を母体とする総合研究大学院大学ならではの、学際的・国際的な企画が可能になることである。従来、博士後期課程では専門性を高めることに重点が置かれるが、自らの可能性を高める上でも、(表面的ではない)学際的な交流は欠かせない。しかし、そのような機会を自ら設定することは、なかなか困難であるが、本事業により、そのようなことが可能になる企画を自ら考え、実行し、あるいは参加することが可能となる。 いずれも、今後研究者として研究成果の社会還元を目指す我々にとって、今後どのようなことが可能なのかを考え、体験するうえで、貴重な機会であると考えてえている。 |
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