国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





村山絵美(日本歴史研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  沖縄県慰霊の日をめぐる現地の動向を探る
2.実施場所
  沖縄戦跡国定公園
3.実施期日
  平成18年6月19日(月) から 平成18年6月30日(金)
4.事業の概要
 

 今回の調査は、博士論文執筆のためのフィールドワーク及び、文献調査である。報告者の研究テーマは、「戦争の語りに関する民俗学的研究」であり、本事業では、沖縄本島において以下3点の調査を行った。
ⅰ沖縄県慰霊祭の参与観察。
ⅱ平和観光の参与観察および平和ガイドへの聞き取り調査。

ⅲ沖縄県立図書館、糸満市立図書館における文献資料収集。特に、今回の調査では、ⅰを重点的に調査し、沖縄における慰霊祭の現状を把握することを努めた。沖縄県は、6月23日を沖縄戦「慰霊の日」と指定しており、各団体・地域で慰霊祭・イベントが執り行われる。報告者は、「慰霊の日」をめぐる現地の動向を探ることを目的とし、いくつかの慰霊祭・イベントの参与観察を行い、その傾向を分析した。参与観察を行った慰霊祭は、慰霊祭の前夜に行われる①沖縄全戦没者追悼式前夜祭(沖縄協会主催)、②平和祈念コンサート(糸満市青年会議主催)、慰霊祭当日に行われる③沖縄県全戦没者追悼式(沖縄県主催)、④平和の礎、⑤魂魄の塔の五つである。

ⅱの調査では、現在沖縄で盛んになっている平和観光の参与観察を行った。修学旅行生が数多く訪れる沖縄では、戦跡を巡りながら、沖縄戦や基地問題について解説を行う平和ガイドが存在する。今回の調査では、沖縄戦の語りを考える上で、重要な存在となってくる平和ガイドの語り及び、戦跡観光の実態を捉えることを目的とし、平和ガイド団体に所属する一方、個人タクシーでその活動を行っているA氏に平和ガイドをお願いして、平和観光の参与観察を行った。

  まず、1日目は、中部・北部地域の戦跡を巡るコースを体験した。行程は、①嘉手納基地周辺の住宅街→②北谷町の米軍上陸の碑→③嘉手納基地→④比謝川(米軍が上陸した地)→⑤チビチリガマ→⑥シムクガマ→⑦読谷村役場→⑧読谷村補助飛行場(旧日本軍北飛行場)→⑨かでな道の駅→⑩安保の丘→⑪前田高地(陣地壕跡検証)となっており、所要約10時間である。

2日目は、南部地域の戦跡を中心に巡った。行程は、①糸数壕(団体対応検証)→②合同慰霊祭→③平和の礎→④沖縄県立工業高校慰霊祭→⑤魂魄の塔→⑥ひめゆり第一外科壕→⑦ひめゆり第二外科壕→⑧ひめゆり部隊終焉の地→⑨真栄里集落、所要時間約12時間である。

ⅲの文献資料収集に関しては、戦死者供養や慰霊祭、平和学習に関するデータを集めることを目的として行った。沖縄県立図書館では、戦跡やガマの調査報告書や平和学習に関する文献を集め、平和学習で使用される戦跡や、語られる内容を把握することを努めた。また、糸満市の過去30年の住宅地図を閲覧し、平和祈念公園や戦跡付近がどのような変貌を遂げたのかを調べた。

5.本事業の実施によって得られた成果
   まず、「慰霊の日」前後に沖縄県内に滞在することで、県外では入手しにくい「慰霊の日」に関連した雑誌やパンフレットを入手することができた他、新聞やテレビなどメディアの動きを概観することができた。また、各慰霊祭を参与観察することで、主催者や会場によって、客層や慰霊行為が異なる反面、共通してどの慰霊祭も芸能面を重視しているなど慰霊祭の傾向を見出すことができた。
  その一方、当初予定していた慰霊祭の参加者へのインタビューは、親族を慰霊する遺族を目の前にして、行うことができなかった。戦争体験や戦死者について語ること/聞くことの難しさという点は、戦争の語りを研究していく中で、重要な問題であるということを改めて認識させられた。
  次に、平和観光の参与観察では、平和観光における戦跡の使用法や、平和ガイドの語りといった点を中心に調査を行った。これにより、平和観光の基本ルートや、平和ガイドの語りの特徴など、より詳しい情報を入手することができた。
 さらに、平和ガイドにインタビューを行うことで、平和観光の現状や問題点、平和ガイドになったきっかけなど、平和ガイドに関する幅広い情報を得ることができた。特に、沖縄戦の説明は、遺族・県内出身者・他府県出身者など観光客の立場によって語る内容や語り口を変えているといった点は注目すべきものであった。この点に関して、今後さらに検討を深めていきたいと考えている。
  文献資料収集においては、実際に図書館を訪れ、資料を手に取ることにより、データーベースの検索だけでは把握しきれない重要な資料を発見することができたといえる。また、長年聞き取り調査を続けているインフォーマントから、入手困難であり貴重な資料を譲り受けることができた。この資料は、博士論文を執筆する上で、重要なデータが記載されており、入手できたことは大きな成果であるといえる。

6.本事業について
   民俗学や文化人類学などフィールドワークを必要とする学生にとって、派遣事業は大変有り難いものである。この支援により、資金不足から思うようにフィールドワークを行えないという事態を回避することができた。また、研究の幅を広げ、博士論文の内容をより深化させるという点でも、貢献している。

 
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