国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート



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根津朝彦(日本歴史研究専攻) | |
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】 | |
「風流夢譚」事件の聞書き調査と戦後「論壇」に関する資料収集 | |
2.実施場所 | |
山梨県立文学館、信州風樹文庫 | |
3.実施期日 | |
平成18年11月15日(水) から 平成18年11月17日(金) | |
4.事業の概要 | |
2006年11月15日(水)から同年11月17日(金)にかけて「風流夢譚」事件の聞書き調査と戦後「論壇」に関する資料収集を目的に国内フィールドワーク派遣事業を利用して調査を行った。 |
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5.本事業の実施によって得られた成果 | |
本調査によって「風流夢譚」事件を中心に資料収集が着実に進んだと言える。京谷秀夫氏寄贈の「風流夢譚」事件関連資料には全国紙や書評紙はもとより『帝都日日新聞』、『日経連タイムス』、『東京新聞』、『週刊新潮』、『アサヒ芸能』など資料の特定並びに収集がしにくい記事についての文献複写を行うことができた。今後それらを精査することで当時事件がどのように受け止められたかについて正確な立体像を再現することが可能となる。 また、中央公論社に長らく在籍した近藤信行氏からは「風流夢譚」事件前後の社内事情や深沢七郎の人物像に関して様々な聞書きを得ることができた。とりわけ『婦人公論』における浅沼刺殺事件の特集が近藤氏の企画であることがわかった。同誌で近藤氏が様々な女優手記の代筆を行ったことなどの貴重な話もお聞きした。そしてまだ存命で事件に関わりの深い当時在社していた数人の幹部の方のお名前を教えていただいたことで、今後の聞書き調査にも進展が期待できる。 信州風樹文庫では、改めて戦後「論壇」に存在感を発揮した岩波書店の全貌に触れることができ、中央公論社と岩波書店の社風の差異のようなものをより実感した。岩波書店の編集者の方が回想記は少ないように思われる。それは岩波書店はやはり出版社であり、編集者が一層黒子的な存在であることが要因に考えられる。対する中央公論社は雑誌が長らく中心であり、良い意味でジャーナリスティックであることにより編集者個々人の顔が見えるような印象を受けた。 岩波書店の社史は『岩波書店五十年』、『岩波書店七十年』、『岩波書店八十年』、『写真でみる岩波書店80年』にまとめられており、同時代の出版史にまで目が配られていて充実した内容で構成されていることを確認した。今後、岩波書店の社史を押さえることで、中央公論社と比較しながら戦後の「論壇」像を多角的に照射できると考える。 修士論文では検討できなかった戦後「論壇」の戦争責任の認識の変容についての資料収集も精力的に行うことができた。『世界』がこれほどまで敗戦の8月15日を一貫して意識していたとは知らなかったので、これは大きな発見であった。調査後、『中央公論』の目次を見ると『中央公論』は8月号で特別な企画は行っておらず、その対照性は際立つ。本調査で得た『世界』8月号の資料を補助線に今後は全国紙の戦後8月15日社説の分析に重点を置いた論文を執筆する予定である。 |
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6.本事業について | |
財政的支援があることで今まで行きづらかった調査地へ行動範囲を広げられることは大変ありがたく、今後もこのような有意義な事業が継続されることを強く願っています。 |
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