国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





奥本素子(メディア社会文化専攻)
 
1.事業実施の目的 【a.他専攻活用事業】
  国立歴史民俗博物館における実際の展示と活動を通じて、博物館展示の持つ意味と機能について学ぶ。特に、展示を作る側と見る(体験する)側の関係やコミュニケーションのあり方について考える。
2.実施場所
  国立歴史民俗博物館
3.実施期日
  平成18年8月9日(水) から 平成18年8月11日(金)
4.事業の概要
 

  この事業の内容は歴史展示論などの講義の他、博物館経験を語り合うワークショップ、担当者による展示解説、ワークシート体験などを行い、さらに実際に展示室を用いて展示と観客をつなぐプログラムを考案し、相互に批評することだった。
一日目は国立歴史民俗博物館で教育普及活動を研究されている小島先生と佐藤先生から講義を受け、その後国立歴史民俗博物館の常設展示場とバックヤードを小島先生の案内で見て周った。
 国立歴史民俗博物館の常設展示を見て周った時は歴史展示と言うものが解説有り無しではどれ程理解に差があるのかと言うのを実感した。もちろん美術館展示でもそうなのだが、美術館の場合感性を働かして鑑賞する傾向がある。しかし歴史資料の場合、感性で見ていくと寧ろ誤解が生じ、展示品の裏の意味と言うものが読み取れなくなる。(例えば昔の仮面の表情がおかしくてつい笑ってしまったが、実は神聖な儀式の道具だったと言う具合に。)博物館は展示資料を鑑賞してもらう場所である。資料とは主に物資料が多い。しかし物から意味を読み取るというのは、実は大変難しいことなのではないかという事が、今回改めて実感した。
 二日目は久留島先生が歴史を展示すると言う葛藤をお話くださった。歴史を展示することは国民をある一つの方面に教育してしまう危険性があるという話を聞いて、納得はしたが、では博物館リテラシーを恐れる余りに分かりにくく文脈がない展示というのも問題だと感じた。一日目に児島先生が教えてくださった機能展示(その物がどう作られ、どう使われていたかという機能に特化した展示)という概念をその解決策としてもっと研究していかなくてはならないのだろう。つまり歴史的背景とともに歴史資料を展示していかなければ、誤解も生まれるし、押し付けも生まれると言うことだろう。
  二日目後半と三日目は自分たちでワークシートを作成してみて、その評価を行った。我々の班は顔というテーマを設定し、各室の展示物から顔に関連する資料を組み合わせて、ワークシートを作成した。私を含め、二名美術館関係の学生が参加したため、歴史的背景を考慮に入れないワークシートを作成してしまった。美術館での展示品である美術作品は作者の手を離れた時点で観客の自由な解釈がある程度許されている。しかし歴史資料は公開されることを意識せずに私用されたり作成されたりしている。よって当事者の意向には十分配慮して、展示公開しなければならない。その事を先生方から指摘され、歴史展示の難しさを実感した。

5.本事業の実施によって得られた成果
   今回、国立歴史民俗博物館の集中講義に参加して改めて博物館の現場の教育普及の実態というものを学ぶことが出来たと思った。私はイギリス、日本と美術館での教育普及インターンの経験がある。美術館ではワークショップが中心となる教育普及を行っている。ワークショップはやもすれば展示品と無関係な活動になりがちで、教育普及活動と展示鑑賞をどうつなげるべきかと言うものは私の博物館教育研究の課題でもある。
今回、国立歴史民俗博物館の集中講義では直接展示品について解説したり、展示品と交流するための手段となるためのワークシート作成を行った。ワークシート作成を任された時、まず考えたのが展示品の解釈を一緒に来ている人と話し合いながら鑑賞できるシートを作成しようと思った。それは私が博物館には協調学習と言う概念が足りないということを常々思っていたからだ。博物館教育の場面では一人で学んで考える構成主義という考え方は導入されているが、社会、友達、そして教師や両親などとともに学んでいく社会構成主義という考え方が入っていない。そのため書き込むことをせず、同じ話題で盛り上がれるようなワークシートを作成しようと考えた。
 同じ班になった学生も私の意見も取り入れてくれて、書き込み式ではないワークシートを作成した。実際に使ってみると、顔と言うテーマのせいもあるが、話が盛り上がり、会話の中でさまざまな気づきが生まれていることに気がついた。たとえば仮面の展示品の前で、「自分がどのお面がいいか選んでごらん」と言う問いかけに、皆仮面に集中してみて、その後仮面の持つ個性的な表情へと話が進んだ。すると誰かがジョイントがついて口が開閉できる仮面があるという指摘をして、西側の仮面にはジョイントがあり、東側の仮面にはジョイントがないということを指摘した。私もその部分は注目していなかったので、複数の目が見て気づく発見のおもしろさと言うものを実感した。
 歴史展示は展示されている人々に配慮して解釈しなければならないから、想像力を勝手に働かすことは許されていないのかな、というのは今回の集中講義を受けて感じた。しかし佐藤先生が言われた展示品をそのまま使わず、その機能自体を自由に話し合うことは出来るのだろう。何が展示資料の本質かと言うものは、教育普及をする際きちんと把握していなければならないのだろう。
 博士論文研究においては、展示物を解説すると言うことはどういうことだろうか、ということを研究しているが、展示物をそのまま解説するのではなく、概念的なものを説明し、展示解釈のメタ認知というものを伝えたほうがいいのではないかと言うことを感じた。

6.本事業について
   今回、日本歴史研究専攻の学生と一緒にワークシートを作成したが、専門の研究学生と共に作成すると新たなアイディアが生まれたので、今後研究していく上でも他分野の研究者と一緒に研究していくことの大切さを学べた

 
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