国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





李 偉(国際日本文化専攻)
 
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  近世の庭園観に関する漢詩文史料調査
2.実施場所
  筑波大学付属図書館・国文学研究資料館
3.実施期日
  平成18年7月24日(月) ~ 平成18年7月28日(金)
4.事業の概要
     申請者の博士論文は漢文と漢詩などの資料を詳細に検討することにより、江戸初期の庭園景観ないし江戸時代の名勝評価の基準を中国との文化的交流の側面およびその時代の変遷を解明していくことを目的とする。当博士論文で取り扱おうとする関連史料の原本確認と資料収集のために、7月24日から28日までの5日間にわたって、筑波大学附属図書館と国文学研究資料館で調査を行った。

 7月24日(月)の午後に、国文研に到着した。調査はまず国文研に所蔵されている資料の原本とマイクロフィルムの状況を把握することからはじまった。今回の調査対象の大部分は筑波大学がその原本を所蔵しているが、国文研には翻刻とマイクロフィルムがあり、原本も何部か所蔵している。
 閲覧する資料は和古書と貴重史料であるため、開架書庫ではなく国文研の書庫に収められている。資料閲覧の申請書を書いてから、職員さんに渡して、書庫から出してもらった。一枚の申請書に一件しか申請できない。また、一回の申請は最高5件しか出してくれない。一つの史料が何十冊もある場合は、何回も申請しなければならなかった。それでも、初日はできるだけ史料に目を通すようにした。また、貴重資料であるため、コピーする場合の申請手続きおよびコピーの可能性などを確認した。原本を見るには、筑波大学へ行くしかなかった。

 7月25日(火)は朝早くから筑波大学へ向かうことにした。筑波大学へ行くのは初めてであった。最初は学校の広さにちょっと戸惑った。大学の公開日でもあったため、駅からはたいへんの混雑であった。中央図書館はどこで下車すべきなのかがわからないため、尋ねたりもした。しかし、多くの人は大学外の者であったため、誰もが知らなかった。そのため、予定より1時間も遅れて、図書館に辿りついた。閲覧したい資料は地下の貴重書閲覧室に所管されていた。
ここも直接に書庫に入ることができず、用意した史料のリストを提出して、職員さんが持ってくれる。専用の閲覧室に大きな机があった。その上に何十冊もの原本を並べて閲覧した。史料の豊富さには驚いた。江戸時代の日本の文人も中国の詩人らと同じように、綺麗な漢文を書いていることに感心した。字が綺麗で結構読みやすかった。しかし、あまりにも量が多いため、午後5時の閉館まで資料の四分の一しか閲覧できなかった。
 長時間にわたって古書籍と近距離に接触するせいか、閲覧室の風通しがよくなかったのかははっきりしないが、その日の夜は気分が悪くなって、それでも筑波大学での調査は二日間しかないので、26日(水)も朝早く閲覧室に行き、作業を始めた。
まず、閲覧したのは昨日の残りの120巻の『鳳岡林先生全集』である。量が多いけど、幸いなことに目録があった。それを参考にして、必要な章節を検索することができた。コピーを考えていたが、筑波大学ではセルフコピーしかサービスがないと教えられた。また、コピー機が故障していた。職員さんもその原因がわからず、やむをえず、普通のコピー機で何十枚をコピーした。しかし、閲覧の時間がどんどん少なくなっていくため、自分でコピーするのをあきらめた。そこでデジカメを取り出し、必要箇所をとりあえずカメラに収めることにした。図書館が閉館する時刻まで撮り続けた。

 27日と28日は同様な作業を国文研で行った。
筑波大学で原本を見たため作業は順調に進んだ。『鳳岡林先生全集』のコピーをとりたかったが、筑波大学からその権利が与えられていないため、コピーもデジカメの撮影も禁止ということを教えられた。筑波大学で急いで撮影できたのは本当にありがたかった。閲覧しかできなかったため、もう一回本を丁寧に読み、必要な箇所をメモした。そのなかから、予想しなかった新しい史料と出会った。

5.本事業の実施によって得られた成果
  江戸時代の庭園史に関する従来の研究は、初期に記録された史料が少ないため、当時の庭園景観の究明はまだ不十分である。それらの問題意識からまず何よりも大事なのは漢詩文史料の問題である。つまり、庭園に関する漢詩文史料の解読が欠如していることである。今までの研究活動の中において、その資料の一部分を二次史料として目にしたことが何度かあった。しかし、その原本を閲覧することはなかった。これらの史料の写本あるいはフィルムが筑波大学付属図書館および国文学研究資料館に所蔵しているため、それを確認と収集するために、今回の研究調査を企画し実行したのである。
 
 筑波大学と国文学研究資料館で五日間の史料調査がおわり、予定通りに博論に取扱っている漢詩文史料を原本に戻って読解することができた。また、資料の中に書かれた庭園景観と風景観に関連する部分を確認することもできた。特に重要と思われる史料は実物を確認できた上、関連機関の規定に従って複写をも依頼した。今回の調査を通して、1000枚弱の史料を入手し、今はこれらの史料の解読作業に急いでいる。

今回の調査と収集の状況を以下のようにリストにまとめた。
国文研資料館にて史料調査と収集状況
2006/7/24(月) 午後1時~6時
1.『鳳鳴集』別名『錦城先生遺稿』文政8年 必要箇所9枚
2.『江府名勝志』昭和47年の翻刻 藤原之廉 横関英一校注 必要箇所pp1-170

2006/7/27(木)9時~17時
1.『燕臺風雅』 七冊 20巻 育徳園関係 大正四年11月翻刻 富田景周編 観文堂
必要箇所 巻十~巻十七  200枚ぐらい
2.『昌平志』フィルム状態 鳳岡先生 昌平坂 学校関係 
3.『西苑記』菊池純 デジカメで撮影
4.『史館茗話』林梅洞 寛文八年
5.『栗山文集』 五冊  必要箇所 巻二 巻六 123枚

2006/7/28(金)9時~17時
1. 『鵞峰先生林学士文集』 105冊 複写依頼をした。
2. 関連論文7部 コピー

筑波大学中央図書館和古書・貴重書閲覧室にて史料調査と収集状況
2006/7/25(火) 10時~17時
1.『蛻巖先生文集』 四冊 寛保2年6月 コピー箇所 巻2、巻3、巻4
2.『江戸名園記』 全書コピー
3.『蛻巖先生詩集』 ル295-29 八巻 前4巻詩、5-8巻は文
  コピー箇所 巻一p7 巻二p17-19 巻三p2、p18-19 巻四p23-25 巻六数箇所
4.『蘭臺先生遺稿』 三巻  コピー 三巻の数箇所
5.『儼塾集』10巻 寛永3年 コピー 巻四 巻六 巻七 巻九、巻十 数箇所

2006/7/26(水)9時~17時
『鳳岡林先生全集』 120巻 目録あり。デジカメで必要箇所撮影

7.本事業について
   イニシアティブ事業の国内学生派遣関連事業に申請し、調査活動ができたのは心から感謝しております。漢詩文の文献といっぺんに対面できたのは幸せな体験でありました。今回の調査を通して、史料調査の辛さと面白さをも体験することができました。博論作成に大事な一次資料をこの目で見て確認し、また新しい史料の分析により、今後は論文の新たな展開が期待されます。

 
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