専攻専門科目履修等派遣事業 研究成果レポート





高田宗平(日本歴史研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【a.他専攻活用事業】
  研究及び博士論文作成上、直接関わる授業内容のため
2.実施場所
  国文学研究資料館
3.実施期日
  平成17年11月1日(火) ~ 平成17年12月20日(火)
4.事業の概要
   日中両国間における書物の移動をめぐる様々な史実の考察を中心として、東アジア文化圏における書物交流の実態とその特質、就中、近代日中文化交流史に於ける漢籍と人的交流のテーマで授業がおこなわれた。具体的には、江戸時代後期から明治時代の日中間の書物交流を知るために、『経籍訪古志』・『日本訪書志』の両書に著録する漢籍のその後の流伝と現状について調査した。同時に、江戸時代後期の漢学・考証学・漢方医学・蔵書家、中国の清朝考証学の系譜や特質に関する講義、また、『漢書芸文志』から『四庫全書総目提要』にいたる中国の歴代の代表的な書目・解題や『古文旧書考』等から見える日本所在の漢籍旧鈔本・佚存書の講義、さらに、日本と中国における漢籍文献学の用語の相異等についての漢籍文献学(古籍文献学)の講義もおこなわれた。
実際に、報告者が担当した漢籍は、博士論文でも扱う旧鈔本『論語義疏』についてである。江戸時代後期の漢籍解題書である『経籍訪古志』に著録される旧鈔本『論語義疏』の解題を講読し、書誌内容を把握した上で、旧鈔本『論語義疏』の現蔵機関を調べ、所在目録の作成に取り組んだ。また、影印や紙焼き写真を見ることができるテキストは、蔵書印等から、旧蔵者を調べ、近年注目されている書物流動史の視座からもアプローチをした。

5.本事業の実施によって得られた成果

 

 現在、『令集解』の依拠すべきテキストといえば、最良と認知されている歴博所蔵田中本を底本としている国史大系所収本が通例である。しかし、『令集解』諸写本の性格等について認識不足のままに、底本として使用されていることが少なからずある。そこで、古代の漢籍受容史という視座も含めて、『令集解』所引『論語義疏』の部分を通して、『令集解』諸写本について考察し、依拠すべき底本を確定した後に、『令集解』所引『論語義疏』と『論語義疏』諸旧鈔本、同時にその他日本古代中世典籍所引『論語義疏』と比較対校していくことにより、『令集解』諸写本の性格を知る上での判断材料を獲得し、あわせて、古代中世に通行した『論語義疏』の鈔本の性格、および古代中世学問史の特質の解明を目指している。以上のような内容が博士論文の核である。この研究の一環として、旧鈔本『論語義疏』の文献学的考察が必要不可欠である。『経籍訪古志』に著録される旧鈔本『論語義疏』の解題から流伝や行方を調べることにより、旧鈔本『論語義疏』の所在目録作成の基礎作業ができた。所在目録は博士論文の附録とする予定である。陳助教授の実地の指導により、日中文化交流史からの知見や、漢籍文献学の発祥の地で極めて研究が盛んな中国の漢籍文献学の研究成果にふれることができた。

6.本事業について
  本事業を基に、より一層、文化科学研究科内の教員・学生間の学術交流が促進されることを望む。
 
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