国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





玉山ともよ(比較文化学専攻)
 
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  アーカイブ調査
2.実施場所
  特定非営利活動法人 原子力資料情報室(CNIC)
3.実施期日
 

平成18年11月22日(水)から11月24日(金)

4.事業の概要
  今回のアーカイブ調査は、2005年(平成18年)11月29日から12月2日まで、アメリカ合衆国アリゾナ州ナヴァホ・ネーションで開催された「先住民国際ウランサミット」(World Indigenous Uranium Summit)に参加すべく、日本の原子力情勢をよりよく知るために、市民の立場から検証している当NGOを訪れ行ったものである。
原子力資料情報室は、1975年に設立され、1987年から故高木任三郎氏が長く代表をつとめておられた(2000年に死去)。原子力資料情報室は、「原子力に依存しない社会の実現」をめざしてつくられた非営利の調査研究機関で、産業界とは独立した立場から、原子力に関する各種資料の収集や調査研究などを行ない、それらを市民活動に役立つように提供している。定期刊行物としては、『原子力資料情報室通信』(月刊)があり、英語版では"NUKE INFO TOKYO"を発刊している。
膨大なアーカイブの中からとりわけ本調査では下記の三点に焦点をしぼり、主に情報室での資料の閲覧およびコピーを通じて行った。

1 青森県六ヶ所村核再処理工場について
2 日本の原子力エネルギーに関する政策について
3 日本の原子力事情を記述している英語資料について

 なお資料の公開・提供に関しては、情報室の共同代表であり事務局長の伴英幸さんに連絡し、事前に大半を準備していただくなど全面的にご協力をいただいた。同情報室のフィリップ・ワイトさんにはオーストラリアのウラン鉱山の状況について口頭による説明、英語版の六ヶ所村についての記述されている資料の閲覧、そして原子力エネルギーに関する世界中の概略的な英語資料について閲覧、また場合によってはコピーさせていただいた。また同情報室の澤村正子さんには機関紙である『原子力資料情報室通信』についてご説明をいただいた。
下記に各項目の調査内容を記す。
1の六ヶ所村の再処理工場に関しては、昨年に本稼動を前提にするアクティブ試験が終わっており今夏に国および関連機関は最終的な始動を予定している。そのことに対する国内のNGO等の運動について調査を行った。
2についても同様に国内NGO等からの視点を分析した。それ以外に、日本におけるウラン鉱山であった鳥取県と岡山県の県境にある人形峠ウラン残土問題について裁判記録などの資料を閲覧した。ウラン残土の一部が裁判後住民側の勝訴で、アメリカ合衆国ユタ州のホワイトメサ先住民保留地近くの施設へ移送されたことについて調査した。
3については、主に同情報室のフィリップ・ワイトさん作成あるいは翻訳の資料を閲覧することが多かった。他に同情報室が取得している英語資料のコピーをさせていただき、資料費にて購入することができた。

*参考: http://cnic.jp/

5.本事業の実施によって得られた成果
    本国内フィールドワークを実施することによって得られた成果は主に下記の4点である。

1 日本の原子力政策についてNGOの視点からの重要な資料を数多く収集することができた。とりわけ六ヶ所村再処理工場についての資料等を集めることができた。

2 今回収集した英語資料は、平成18年11月28日から平成19年1月25日まで、同じく文化科学研究科学生派遣関連事業にて、現在行っているアメリカ合衆国での海外フィールドワーク中に最初に参加した「先住民国際ウランサミット」において、各国の事例報告を聞いた上で、日本の状況と比較検討するのに特に参考になった。またそのサミットでのワークショップにおいて日本の原子力政策に関して他の参加者から質問があり説明する機会があり、大いに本国内フィールドワークの調査資料が役立った。

3 また本国内フィールドワークならびに現在まだ進行中の海外フィールドワークを通じて、原子力資料情報室と大変似た活動を行っているニューメキシコ州アルバカーキのSouthwest Research and Information Center (SRIC)とつなぐ役割が果たせたことは大きな成果だったと考えている。原子力資料情報室の活動状況を紹介し、両団体が互いの活動に関心を持ち、今後も情報交換等していくことによって、市民の立場から調査研究を行っている機関同士が、今後の国を超えた連携を発展させていく可能性がある。

4 本国内フィールドワークは、私がアメリカ先住民と核問題との関連を研究していくにあたっての前段階となる調査の基礎を築く上で、重要な意味を果たしていると考えている。その理由は、調査の過程でより実践的な活動に自らが関与していくことによって、運動なり市民活動に一個人として研究がフィードバックされる機会が増えたということである。論文を作成することは最終的な成果の一つであるが、その過程で起こるさまざまな出会い(人だけに限らない)を通じて、文化人類学が学問の領域を超えより積極的に社会に関わっていく一つの現場として、そのポジションをオープンにしていくことが重要であると私は認識している。
それは何よりも今後とも研究を続けていく上で、原子力資料情報室のスタッフの方々との顔と顔の見える関係を築けたことが大きな成果だったと感謝したい。

  以上、短い調査機関ではあったが、全体的に見て博士論文研究に大変有益なフィールドワークができたと考えている。

6.本事業について
  大学院生に対して今後もこのようなサポート体制を継続して行っていくことを強く希望します。なお調査にあたっての滞在先に、私の場合は託児がどうしても必要であったため、子供の面倒を見てくれる友人宅を滞在先として認めてくださったことに感謝しています。

 
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