国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





渡部鮎美(日本歴史研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  山梨県河口湖町河口地区における稲作技術の選択と評価に関する調査
2.実施場所
  山梨県富士河口湖町河口地区
3.実施期日
  平成18年7月10日(月) から 平成18年7月14日(金)
4.事業の概要
 

 本調査では河口地区の稲作労働とその技術を明らかにするために必要となる手植の技術について聞き取り調査および計量をおこなった。さらにこれに加えて、こうした労働の背景となる土地利用とこれまでの労働のあり方について調査を行った。
7月10日に基盤機関(佐倉市)より、調査地の山梨県富士河口湖町河口地区に移動する。当日より、農家・圃場で聞き取り調査を行った。6月10日~14日の調査機関中は、地区内の宿泊施設に滞在した。
 本調査では河口湖の内水面を利用した稲作形態であるウエダシや恩賜林の分割利用についての実証資料となる地積図を入手した。河口湖浅間神社蔵の資料については、担当者急用のため閲覧ができなかったが、9月以降に再度、調査に行き閲覧をさせていただけるよう手配をしていただいた。
 11日午前は現在も空中田植と同じ栽培方法のポット苗で手植えを行っている農家を訪ね、肥料および育苗土等の「苗代一切」(農業統計による)の領収書を見せていただき、そこから手植えでかかる苗代一切の費用を計算した。同時に写真で現在使用している農機具や肥料の撮影を行った。同日午後には山林の管理や割地制度、昭和初頭からの労働慣行に詳しい女性から聞き取り調査を行い、当時の山林利用と現在の利用についてうかがった。夕方からは富士河口湖町役場河口支所にて地積図について職員の方に聞き取りを行った。
 12日午前は農家宅にて労働慣行や本業とは別に行われている河口農業振興研究会による観光ブルーベリー・プルーン農園についての調査を行った。ここでは老後の労働について聞き取りデータを得ることができた。同日午後からは、河口湖土地改良区の役員となってきた方のお宅に伺い、ウエダシや山林の利用について調査を行った。また、この後、同地区在住の女性宅へ伺い、老後の労働についての聞き取り調査を行った。
 13日午前は観光ブルーベリー・プルーン農園にて、河口財産区の管理委員の方にお話を伺った。ここでは、山林の配分方法や利用についての聞き取り調査を行った。午後からは富士河口湖町河口支所にて70代の男性から老後の労働や農業の変遷について聞き取り調査を行った。夕方からは同地区に住む女性から労働慣行や老後の労働についてのお話を伺った。また、再度、夜に当日調査を行わせていただいた男性2人と職員の方からお話を伺うことができた。
 こうした調査を14日午前までに行い、同日午後に調査地より基盤機関に戻った。

5.本事業の実施によって得られた成果
    本調査を行うことによって、空中田植の技術の一部を援用した手植えでの計量的なデータを取得することができた。肥料代金領収書から作成したこの計量データは今後、博士論文の一部となる「稲作技術の選択と評価」についての論文を書く上で十分活用できると考えている。特に、空中田植の技術を利用した手植えが空中田植の受けるような否定的な評価を被らずに、積極的な評価を受けていることや「手抜き」とも見られるような栽培方法が地区の人々から見られないために評価が良いといったことが明らかになっており、これまで修士論文で展開した論の裏付けとして活用できると考えている。
 さらに、本調査では山林の利用や田地の利用の実態が明らかになってきおり、今後の調査によって論を展開できる見込みがあると思われる。山林については割地が居住年数によって不平等に配分され、行われていたことが分かった。これに加え、県有林での盗伐や無許可の桑苗の植え付けなどが行われ、こうした山林の管理は余剰地であるが故に不完全であったことが分かった。また、この余剰地の不完全な管理は内水面稲作のウエダシと共通するものがあり、この比較から余剰地の管理の実態を明らかにすることができると考えられる。
 これに加え、本調査ではブルーベリー農園の経営や古代米の栽培などの生計とは直接関わらず、利益を積極的に求める必要のない老後の労働のあり方の一端を聞き取り調査で知ることができた。こうした労働のあり方はタイムカードや記録資料、実測による今後の労働時間の計量で実証的な論にすることができると考えられる。高齢者による労働はすぐには利益が得られないものの、利益配分が見込める。
さらに、「楽しみ」という側面だけではなく、こうした金銭的利益や交友関係が労働の動機としてあることから、これから、老後の労働を考える際には労働単体ではなく、地域社会や家庭生活についても調査をしていく必要があると感じている。今後の調査ではこうした労働を行う高齢者の労働や日常生活をしるために、聞き取りに加えて参与観察を調査に加えていくつもりでいる。
 このように今回の調査では、これまでの稲作技術の選択と評価に直接関わる問題からその背後にある土地利用や労働観について聞き取り調査をすることができた。また、これからの調査の方針や必要なデータを把握することもできた。今後はこうした調査データを有効に活用し、学位審査論文を作成したいと思う。

6.本事業について
    本事業がさらに多くの学生に有効に活用されることを望みます。
  書類については、専攻長や主任指導教員の不在時には印をいただけないため、提出が遅れることがありますので、提出期間にもう少しの猶予をいただけるとありがたく存じます。

 
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