国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





渡部鮎美(日本歴史研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  田植の労働時間の計測・オーラルな資料の収集・文献資料の収集
2.実施場所
  山梨県富士河口湖町河口地区
3.実施期日
  平成18年5月19日(金) から 平成18年5月23日(火)
4.事業の概要
 

 平成18年5月19日、午前に基盤機関(佐倉)より電車で新宿へ向かった。新宿駅から高速バスを利用し、富士河口湖町へ向かい、同日午後より、河口地区での調査を行った。
  現地到着後は富士河口湖町役場河口支所にて、2名の話者から聞き取り調査を行った。ここでは、山林の利用や食生活、子供の労働についての聞き取りをすることができた。続いて、地区内のM氏宅に伺い、水番についての評価や、河口地区の御師と百姓という階層性に関する聞き取り調査を行った。その後、19:30より、富士河口湖町教育委員会による「河口の稚児の舞」(株式会社ポルケ製作・古谷和久監修)の試写会に参加した。
  20日は、午前にN氏宅にて山林の利用、湖水の内水面を利用した稲作、ウエダシに関する聞き取り調査を行った。その後、同氏とともに浅間神社社務所にて、他2名の話者を交えて聞き取り調査を行った。ここでは、ウエダシが行われる前の内水面の利用や山林の所有権、山林資源の利用について調査をした。この後、H氏宅に伺い、御師業の衰退、林業、神社運営に関する聞き取りをした。
  21日は、朝7時半から手作業で田植を行っている農家の参与観察、および行動記録、聞き取り調査を行った。これにはビデオカメラを用いており、この映像から労働時間を項目ごとに計量していく予定である。また、同日午後には、W氏宅に伺い、ウエダシについての調査をし、その後、浅間神社社務所にて、氏子総代に『神社明細帳』を閲覧させていただいた。
  22日は、午前中に資料映像として使う湖畔の土地の写真を撮り、その後、河口支所に集っていた老人クラブの方から聞き取り調査を行った。午後からは、氏子総代の方に浅間社神社所有の文書の目録を閲覧させていただき、次回の調査で利用したい文書のリストアップを行った。また、河口支所にて文書のコピーの一部を複写していただいた。夕方からは地区内の山林に入り、「アラク(荒地)」と呼ばれる桑畑の跡地を探し、写真を撮影した。
23日は午前中にS氏宅に向かい、山林の利用や渡米した地区の人に関する調査、戦前、戦中の暮らしについて聞き取り調査を行った。午後からは、河口支所にて河口地区の水路図面の複写をしていただいた。また、この後、水番の「2段取り」と呼ばれる取水方法を記録、観察した。
なお、上記の調査の後、同日中に、河口湖駅から高速バスにて新宿駅に向かい、基盤機関に戻っている。調査期間中の宿泊は地区内の富士健康センターを利用した。資料のコピーについては、河口支所のご厚意で無償にて行っていただいた。

5.本事業の実施によって得られた成果
   報告者はこれまで、空中田植と機械植という2つの技術で稲作労働について、計測した労働時間や生産費から実証的にその経済性や合理性について論じてきた。その一方で調査地の河口地区には現在も手作業で行われている田植があり、この技術については聞き取り調査や写真資料、一部作業の計測データから記述を行ってきた。しかし、この手作業での田植労働については、これまで実測資料がなく、実証的な論を展開できていなかった。
 今回のフィールドワークでは、こういった問題意識から、手作業での田植をビデオで記録し、この映像をもとに労働時間の計測をすることを試みた。結果、労働時間や生産費を算出することができ、このデータを利用することで、手作業での田植労働を実証的に論ずることが可能になった。また、修士論文で扱った稲作労働の経済性・合理性に関する論を補強する事例として、今回の計量・計測データを用いることもできると思われる。さらに、今回は畦畔の造成についても労働時間の計測を行うことができたので、このデータも今後、活用していきたい。
 また、聞き取り調査からは、河口地区での内水面の利用と土地の所有に関する階層性が関係していたこと、山林や内水面等の土地資源の認識が通常の田地とは異なっていたことなどを知ることができた。こうした山林・内水面・田地の土地資源の配分方法と利用については、これまでの先行研究で論じられてきた形態とは異なる面があり、この点についてさらに調査をする必要があると考えている。特に河口地区では居住年数が土地の配分に際して大きな要因になっている他、「早いもの勝ち」的な規範が浸透していることが大きな特徴でこうした土地利用に関する規範意識が本当に共有されているのか、今後の調査によって明らかにしていきたい。そして、今回の調査で新たに聞き取りをすることができた話者からは、これまで聞き取りを行ってきた話者から得られなかったオーラルな資料を収集することができたので、今後の調査でこうした話者の聞き取りを重ねていきたい。
 さらに、今回、明治期~現在までの浅間神社所有の文書や河口湖土地改良区所有文書の一部を閲覧することができ、これらから、山林や田地の所有に関する規範の歴史的変遷を追うことが可能であるという知見を得た。これらの文書の中には宮司が不在で許可が得られず、閲覧できなかったものもあるので、今後の調査で随時、交渉し、利用をしていくつもりである。
 上記の調査内容については、今年度、修士論文を再編集して学術雑誌に投稿する際に用いる他、今後の調査内容と合わせて、新たに執筆予定の論文の事例、データとして用いる予定である。

6.本事業について
   民俗学の研究活動にはフィールドワークが欠かせない。本事業が今後もそれを理解し、支援するプログラムとして機能し、有効に活用されることを望む。

 
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