国内外フィールドワーク等派遣事業 研究成果レポート





横山輝樹(国際日本研究専攻)
 
1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】
  史料収集
2.実施場所
  国立公文書館
3.実施期日
  平成18年8月7日(月) から 平成18年8月11日(金)
4.事業の概要
 

  私の現在の研究テーマは18世紀前半に於いて江戸幕府の実施した武芸奨励を分析するというものであるが、現在武芸奨励に関する研究は希少であり、なおかつそれらは幕末の西洋式軍制改革を扱ったものがその中心である。即ち、本研究を進めるにあたりその土台となるデータは全て私自身が作成せねばならない訳であるが、現在刊行している幕府の記録類のみを使用したのでは限界があるといわざるを得ない。今回調査を実施した東京都千代田区の国立公文書館には、徳川幕府旧蔵の様々な文書、記録類、その他多種多様の書物が所蔵されている。即ち、刊行史料のみでは不明であった種々の問題を解明するに至る史料が所蔵されている可能性が非常に高いのである。しかしながら同館は交通費、複写費等が多額になることが見込まれる。そこで私は、総合日本文化研究実践教育プログラムのc区分、国内フィールドワーク派遣事業に応募した。 まず、応募前に同館のホームページにて複写すべき史料、閲覧すべき史料に目星を付けた(ホームページで分かるのは題名や作成年次のみ、内容までは確認出来ない)。調査期間前には、調べるべき項目を整理した(漠然としたものではなく、刊行史料では実態が不鮮明な○年○月○日に実施された炮術見分について調べる、といった具体的な項目)。同館に赴いた後は、まず、複写依頼を予定していた史料を実際に閲覧し、大体の内容を把握した上で、それぞれの史料を取捨選択し、複写の申請をした。これらの史料は私の研究にとって特に重要なものであり、繰り返し原本を吟味せねばならないものであるので、複写を依頼した。次に、その他の史料について、必要箇所を解読(史料は独特の字体で書かれている)・記録(解読した文面をそのまま原稿用紙に記録する)した。これらの史料は複写依頼をした史料に比べれば現在のところ重要度は低いが、部分的には刊行史料を補う情報を有しており、複写依頼をしないまでも閲覧すべき史料である。これらは日記形式の記録類が中心であり、調べるべき箇所を絞る事自体は容易であったが、その上でも膨大な分量であり、全ての箇所を解読するには至らなかった。また、時間の関係上複写依頼も解読・記録作業の対象からも外した史料も多くあったが、これらは一通り目を通した。今後公文書館で調査をする際には、解読し残した史料と共に、これらの史料を調査対象の中心とする所存である。

5.本事業の実施によって得られた成果
   今回の調査は、国立公文書館に所蔵されている、江戸幕府の武芸奨励に関する史料を対象としており、重要度別に、①同館にて現物を確認の上、複写を依頼、②現地にて必要箇所を解読(史料は独特の字体で書かれている)・記録(解読した文面をそのまま原稿用紙に記録する)という二種類の方法で調査を進めた。①の史料に関してであるが、事前の予想通り、非常に重要な情報を含んでいた。例えば、「御番士代々記」という史料である。この史料は将軍直轄軍である五番方の人員構成に関して各部隊(組)毎にまとめられている。刊行史料である「寛政重修諸家譜」や「柳営補任」といった記録類では、各部隊に属する旗本の個人名を体系的に把握するのが非常に困難であり、情報量も限られている。「御番士代々記」ではその様な不足点を大幅に補う事が可能である。こうして得られたデータは、武芸上覧に参加した各部隊の旗本がそれぞれ部隊内でどの様な位置にあったのか(年齢的にどの位置にあったのか、等)、武芸上覧に参加する旗本には参加しない自部隊の同輩に比してどの様な利点があったのか、この様な論点を大幅に解決し、私の研究も大きく前進するのである。また、徳川吉宗がその将軍在任中に頻繁に実施した狩猟に関してまとめられている「享保遠御成記」等の記録類は、従来の研究で注目されている猟場のみではなく、狩猟に扈従した旗本が誰であったのか、そうした情報まで含んでいる。前掲の「御番士代々記」と組み合わせる事で更に多面的な分析を進める事が可能となるであろう。個別研究として、吉宗の狩猟に関する論文を作成するに足る史料であった。②の史料に関してであるが、今回は「江戸幕府日記」「柳営日録」といった記録類を対象とした。残念ながら必要箇所全てを解読するには至らなかったが、例えば享保4年(1719)に下級幕臣を対象に実施された砲術見分について、刊行史料では実施の事実のみが記されており具体的な情報が得られなかったのに対してより細かな記述が為されており、刊行史料によって描いたこれまでの字体を修正する新情報を得られた。また、刊行史料の情報の精度を確認する上でも、照らし合わせという事が可能であった。以上の点を鑑みれば、今後も調査を継続すれば、確実な成果が得られると考える。総じて、①②の史料いずれも、刊行史料を大きく上回る情報量を含んでおり、享保期の幕府武芸奨励の研究を大きく進めることが見込めよう。

6.本事業について
    今回お世話になった国内フィールドワーク派遣事業については概ね不満はありません。書類が多いのには若干閉口しましたが、高額の費用が関わる事業である以上、仕方ないことであると考えております。今後も存続して頂きたい事業であります。
  贅沢を言わせて頂くならば、国内学会等研究成果発表事業を拡大して頂きたく存じます。即ち、学会発表をしていなくても学会参加自体も対象として頂けないかという事であります。例えば、居住地から一定の距離(100km等…)にある会場で開催される学会参加には交通費のみを出すという風にして頂ければ、と考えております。あくまで“贅沢な”要望ですので、今後事業を拡大するという様な際にお考え頂ければと存じます。

 
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