石原朗子(メディア社会文化専攻) |
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1.事業実施の目的 【c.国内フィールドワーク派遣事業】 |
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分野における校数が少ない専門職大学院の特徴の観察 |
2.実施場所 |
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京都情報大学院大学応用情報技術研究科(専門職大学院) |
3.実施期日 |
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平成19年8月25日(土) |
4.事業の概要 |
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1.京都情報大学院大学の専門職大学院としての特色
京都情報大学院大学は、情報系の専門学校を母体として作られた専門職大学院である。そのため、情報スキルの教育に強く、また、国内・海外に一定のネットワークを持つ。
本学の専門職大学院としての特徴は、研究者ではなく実務家を育てるということを重視していることであり、社会のニーズに応え、時代を担い、次代リードする実務能力と創造力をもった高度な人材の養成を目的としている。
そして、情報の専門学校で培った情報教育のノウハウだけでなく、企業家による経営能力の涵養も併せて行い、情報化社会の中で、ITと経営という2つの専門性をもった専門職の養成を目指している。このような学際性が本学の特徴である。本学は、IT系の学校ながら、国内のMBA・MOTランキングで10位内に入るなど、MOT教育の点でも力を入れている。入ってくる学生も多彩で、約半数が新卒(文系・理系半々)、残りが社会人中心だが、系列専門学校の修了生や留学生も学生にいるという。
2.京都情報大学院大学の教育
本学の教育の特色は以下の5点である。
@徹底した実務・実地のカリキュラムにより、ITと経営手法に精通させる。企業内で、各企業に適した人材として実務を遂行することを目標とする。
A幅広い分野から多様な学生を受け入れ、学部を限定しない。必要最低限の補習教育とゼミなどでのフォローを行う。
Beラーニングと対面教育の併用し、学生の需要に合わせる。社会人のニーズに合わせてイブニング履修・長期履修など柔軟な履修形態を選択可能にする。
C企業の実務経験者を拡充し、文理の学識経験者と企業の実務家教員からなる教員層が教育を行う。海外の実務家などの一流講師陣も揃え、短期集中講義で世界的なIT業界の状況を伝える。
DIT面とマネジメント教育面で米国大学とのネットワークを持ち、最先端の教育成果を取り入れる。
3.教育上の工夫
教育上の工夫としては、学生のニーズに応え、経営に重点を置いたコースとITに重点を置いたコース(開学3年目から)を配していることである。両コースは共通科目が多く、IT・経営の両方に強くなるだけでなく、個々の得意分野が作れるように、学生自身がコースの枠内で共通科目群から科目のバランスを考えて習得できるようになっている。また、学生数に対して教員数が多いこともきめ細やかな教育の対応や就職支援を可能にしている。対学生の教員数は従来の一般大学院の約1.5倍であるとのことであった。
また、実務教育の面でSAP・SASを取り入れている。SAPシステムとはビジネスにおけるERP(企業資源管理)のパッケージで、国内企業の半数が取り入れており、これを教育に取り入れることで高度な実践キャリア・スキルを身につけられるという。また、SAP認定コンサルタント対策講座も行い、資格合格者を輩出し、専門性の証明も行い始めている。
SASは理系一般で使われる統計ソフトであり、専門的な統計スキルを身につけることができるという。こちらも認定試験を受けることを推奨し、自身のスキルの証明をするように促しているという。
4.京都情報大学院大学の求める人材像
本学の目指す職種は、CIO(Chief informaition office)をはじめとする高度な情報専門職で、こうした職種を最終ゴールとして、経営と情報システムの能力を身につけることが目標であるという。その求める人材像は、
@ITの基礎理論がわかる
A最先端のITの応用の十分な知識がある
B企業経営・運営の理解がある(=コスト感覚がある)
Cプロジェクトを確実に遂行できる
という4点を兼ね備えた人材であるとのことであった。
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5.本事業の実施によって得られた成果 |
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1.得られた成果
いわゆる専門学校や構造特区における株式会社立の専門職大学院は、新しく参入してきたことから「新規参入型」専門職大学院と呼ばれる。これには以下の特徴があるという。@マネジメントを学ぶこと、A市場の確保が発展途上で修了生の就職支援に熱心であること、B資格取得などのゴールを設定している大学院もあること、C専門学校や資格取得予備校との差異化が求められていることなどである(吉田文,2007)。
また、筆者は比較的少数の学生に対する教育の工夫、各学校の売りと棲み分けもこうした大学院の特徴と考えている。
このような傾向において京都情報大学院大学を、事前に視察した神戸情報大学院大学と比較すると、「新規参入型」専門職大学院としての共通する特徴、情報系専門職大学院としての共通点、相違点があることがわかる。
まず、「新規参入型」専門職大学院としての共通する特徴としては、教育上の工夫や熱心な就職支援という面が第1にある。就職支援については、教員個々の力が大きいだけでなく、専門学校の持つ人材ネットワークの活用も行い、自身の学校の特色を生かした就職支援がなされていると言える。これは、「新規参入型」専門職大学院一般の特徴とも言える。つまり、1つ目の知見として、「新規参入型」専門職大学院であるゆえの特色を生かした就職支援や教育上の工夫がなされるということである。
また、本学はマネジメント教育にも力を入れており、宝塚造形芸術大学の専門職大学院と同様に、自身の既存の学問分野(ここではIT)と経営の二重の専門性を身につけさせることで、情報化社会、グローバル社会に通用する専門職養成を図っているとわかる。このように、新しい分野の専門職大学院の多くは、二重の専門性による専門職像を想定しているところが多い。これが2つ目の知見である。
次に、情報系の共通性という点では、形は違うにせよ、一定の方法論でITスキルを身につけさせるノウハウを持つことである。ただし、京都情報大学院大学の方は経営に力を入れている点で、神戸情報大学院大学と大きく異なる。しかし、京都情報大学院大学にもITを重視するコースが後からできたことを考え合わせると、現実的にはITもわかるが経営がわかる人材よりも、経営もわかるIT人材が、現時点で求められている人材像ではないか、と考えられる。そして、ITスキルの重視の傾向はまだ強いのではないかということも2つの大学の動向から推測される。これが、現在のIT業界の求める人材像に関する知見である。
2.今後の研究の展開可能性
本研究は「分野における校数の少ない専門職大学院」に関する研究の調査の一部である。よって、こうした希少性の高い大学院について、今回の調査を含めた知見をまとめている。本研究の成果は「『分野内希少型』専門職大学院の特徴−教育・福祉・医療・芸術・情報の専門職大学院の比較から−」として、大学教育学会誌第29巻第2号に掲載予定である(2007年9月12日決定)。 また、情報系という新しい専門職(ITプロフェッショナル)についての教育についても考えていくことで、博士論文への展開可能性もあると考えている。
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6.本事業について |
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フィールドワークは非常に重要だが、時間と労力がかかり、近隣でなければ経済的な負担も大きい。本事業においては、他専攻との交流も重要ではあるが、普段できない研究活動を行う点で、今後もフィールドワークへの助成を続けてほしいと切に希望している。 |
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