ポスター発表

ポスター発表

生業の変容にみる地域的特徴 -タイ東北部・土器生産地の事例から-

発表者所属名
比較文化学・国立民族学博物館
発表者氏名
中村 真里絵

 Ⅰ.目的

1970年代後半から1980年代に、生業が農業から土器づくりへと変容したタイ農村地域を取り上げ、村人の居住形態や労働形態を、土器づくりとのかかわりから検討する。

 Ⅱ.調査対象地

タイ国、東北地方、ナコンラーチャシーマー県に位置する土器生産地

 Ⅲ.調査内容

居住形態と労働形態に関する調査および考察をおこなった。

①居住形態:東北タイ農村地域に特徴的な屋敷地共住がみられる。屋敷地共住とは、成長した子どもが、結婚後に親の屋敷地内に家屋を構えて独立する家族形態のこと。土器づくりにおいては家屋だけでなく工房や窯も独立する傾向がみられた(図1参照)。

②労働形態:農業を生業としていた時代、屋敷地には、親子が助け合って農業を維持する共同耕作という機能があった。土器づくりでは、賃金労働が基礎となっているが、親子、兄弟関係、親戚関係や隣人関係にある人、ときには高齢者や身よりのない者を積極的に雇用していた。

 Ⅳ.結果

①居住形態:土器づくりを生業とする場合でも、屋敷地共住的な要素が続いている。

②労働形態:賃金労働が基本であるが、雇用関係には、村人同士の助け合いがみられる。 以上の二点から、現在の土器づくりは、農業を生業としていた際の地域的特徴である居住形態や労働形態の延長線上にあることがわかった(図2参照)。これらの地域的特徴は、現在の機械化した農業において消滅していることと対照的である。そのことから、土器づくりを通じて、村人には新たなつながりを生み出していることを指摘できる。この新たなつながりは、農民が職人化した結果として生み出されたものだといえる。今後は、この職人化したことによる人々のつながりの具体的分析をおこない、現代タイ農村における人々の社会関係の在り方を明らかにしたい。



 上:図1 第一世代から第三世代への屋敷地の変化


 下:図2 調査地における土器づくりの概念図