
第20巻。主人公・源氏の32歳の秋から冬を描く。源氏の最愛の女性であった藤壺は、同年春に薨去(薄雲巻)。朝顔巻で、源氏は前斎院・朝顔に懸想するがかなわない。夜離れが続いた源氏の妻・紫の上は、源氏の行動に拗ねながらも、源氏と共に当代の女性評を始める。その夜、紫の上に藤壺の面影をありありと見出した源氏の夢に、亡き藤壺が現れ、源氏に恨み言を述べ、源氏は藤壺の言葉の真意を知ることなく、夢は儚く中絶する。
入りたまひても、宮の御事を思ひつつ、大殿籠れるに、夢ともなくほのかに見たてまつるを、いみじく恨みたまへる御気色にて、「漏らさじとのたまひしかど、うき名の隠れなかりければ、恥づかしう。苦しき目を見るにつけても、つらくなむ」とのたまふ。
○女性評を行ったことで、源氏と藤壺の関係が世間に露呈(藤壺は、源氏の父・桐壺院の后)。
↓↓↓
しかし、本文には源氏と藤壺の関係を疑う人物は出ておらず、そういった本文も書かれていない。
○そもそも「夢」とは何か?
当時、夢は夢に現れる人物が、夢を見る人物を思うから夢に見る、と信じられていた。
○亡き藤壺の訴える「漏らしてはならないこと」とは?
冷泉帝出生の秘密(桐壷院の子。実の父は源氏)。
藤壺の死後、冷泉帝は夜居の僧都から、自身の出生の秘密を知る(薄雲巻) → 秘密の漏えい
○作中における死者の夢
源氏の父・桐壷院は、源氏の夢に現れた時、死者である自分は、常に現世を見ている訳ではなく、さらに、現世(=夢)に現れることが容易でないと語る(明石巻)。
○藤壺が薨去したのは薄雲巻であるが、朝顔巻とは時間的隔たりがほとんどない(同年の出来事)。現世を常に顧みていなかった藤壺は、源氏と紫の上が行った女性評がきっかけとなって、現世を顧みる。そこで、子の冷泉帝が出生の秘密を知っていることを、この時点で知る。そのため、源氏を恨み、朝顔巻において最後の登場を果たした。
※本文は、『新編日本古典文学全集源氏物語二』に依る(平成七年一月、小学館刊)。