総合研究大学院大学文化科学研究科「魅力ある大学院教育」イニシアティブ 総合日本文化研究実践教育プログラム
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石橋嘉一(メディア社会文化専攻)
 
1.事業実施の目的 【f.研究科選定国際会議等派遣事業】
  The 8th APRU, Distance Learning and the Internet Conference 2007における研究発表
2.実施場所
  Chulalongkorn University, Bangkok, Thailand
3.実施期日
  平成19年12月12日(水)〜12月15日(土)
4.事業の概要
   本事業では、The 8th APRU, Distance Learning and the Internet Conference 2007(APRU_DLI 2007)において研究発表を行ってきた。事業概要の報告に関し、1. 国際会議の特徴、2. 大会会場と開催期日、3. 大会プログラムの特徴、4. 大会と自分の研究の位置づけ、について主に報告する。
1.国際会議の特徴
 国際会議の母体となっているAPRU(Association of Pacific Rim Universities)は、環太平洋地域の大学による国際大学連合で、環太平洋圏の教育・研究の分野において連携し、協力することで国際社会に貢献していくことを目的として設立されている。APRUの活動は幅広いが、その一環では、e-learningを中心とした教育の質の向上と教育機会の普及を目指す活動がある。APRU_DLI は、そのe-learningに特化した教育に関する研究、実践報告として、毎年一度、環太平洋地域の研究機関で開催される国際会議である。
2.大会会場と開催期日
 大会の会場は、タイ(Thailand)の首都、バンコク(Bangkok)の中心地に位置するチュラロンコン大学(Churalongkorn University)で行われた。チュラロンコン大学は、タイの名門大学で、高度な研究機関としても名高い。大会の開催期間は、2007年12月12日から15日の4日間にかけて行われた。すべてのプログラムは、全体会及び各研究発表ともにチュラロンコン大学にて行われた。
3.大会プログラムの特徴
 2007年度のAPRU_DLIでの議題は、"Sustainable Learning in a Global Information Society"で、グローバル化及び情報化される社会の中での「持続可能な学習」についての研究発表が中心に行われた。大会での各セッションは、以下に分類され、
(1) Faculty development for tomorrow's teaching
(2) Challenges to learners' center culture
(3) Key learning quality
(4) E-content development: Applications and Implementations
(5) Methodology and future trends in ICT assisted education
 e-learningを中心とするテクノロジーを活用した教育に関する既存の問題点と今後の展望について議論された。
4.大会と自分の研究の位置づけ
 当派遣の報告者は、発表カテゴリー(2)の “Challenges to learners' center culture”において、学習者中心の言語学習の可能性について博士論文執筆計画と中期報告の研究発表を行った。発表タイトルは、“Research Project to Develop English Pragmatic Communication Competences using e-learning and Common European Framework of References for languages (CEFR)”で、ヨーロッパの外国語教育で活用されている「European Language Passport(ヨーロッパ言語学習記録帳)」を日本でのe-learning化を図るための理論的背景と効果検証の方法論の提案について発表を行った。
5.学会発表について

 本発表は、「European Language Passport(ヨーロッパ言語学習記録帳)」というCouncil of Europe (ヨーロッパ評議会)により制作された外国語教育のための言語学習記録システム(Language Portfolio)をどのようにe-learningに応用し、英語学習者のサポートができるかという研究計画の報告を行った。
(1) まず、博士論文全体の執筆計画について説明を行った。日本における英語教育の問題点について触れ、教授法の変遷に触れた。それは、歴史的に西洋から学問を取り入れるにあたって、訳読と文法を理解する英語教育が重要視され、そのような教育実践が行われてきた経緯を説明した。
その後、受験のための英語教育を背景に抱える日本において、どのような学習内容と教授法において、英語が教授されてきたか、その歴史と特徴について述べた。訳読や文法中心の教育がいかに社会的、文化的、政治的に形成され、再生産されてきたかについて中心に話した。
時代は平成に移り、文科省が掲げた「英語が使える日本人」育成のための行動計画について触れ、国が目指す目標と学生の英語能力の現状についての乖離について、その背景と原因、今後の展望について発表した。
(2) その後、ヨーロッパで開発された「Common European Framework of References of Languages (CEFR)」と「European Language Passport(ELP)」ついて触れ、(1)コミュニケーション能力がどのように定義され、(2)どのような指標のもとに評価されているか、(3)学習者の外国語学習の進歩をどのようにサポートする機能が盛り込まれているのか、を考察した。まず、CEFRの歴史、政治的側面に触れ、EU圏内における言語教育のシラバスや教授法、評価の共通基盤を構築する試みであり、外国語の運用能力を高め、国を越えてのコミュニケーションを可能にし、人や経済の動きを活発化させようとするプロジェクトであることを紹介した。そして、近年日本においても英語教育関係者を中心とするプロジェクトが次々と立ち上がり、CEFRを基軸とした言語教育のグランド・デザインが開発されている近況についても話した。しかしながら、ヨーロッパから輸入された枠組みをそのまま日本の教育に導入できるのであろうか。多言語、他民族であるヨーロッパと日本語のみが社会、経済、人の流動のコミュンケーションの根幹となっている日本では、コンテクストが大きく違い、今後の日本におけるCEFRとELPを応用した教育の可能性と問題点について議論した。質疑応答では、聴衆から多くの示唆に富む質問とコメントをもらうことができ、今後の博士論文執筆に参考になる貴重な機会であった。

6.本事業の実施によって得られた成果
 

本事業において得られた知見は以下のとおりである。質疑応答からいただいた意見を以下に列挙する。
(1) 「European Language Passport(ELP)」という学習者が学習過程を記録できる教育ツールが、CEFRには併設されており、理論と実践が教育的にうまくデザインされているが、それを日本の学生にうまく応用し、活用できるとは限らない。
(2) 「Common European Framework of References of Languages (CEFR)」は、外国語教育の枠組み、ゆえに、参照程度のものであり、それを実践の教育の場で、無理やり応用しようとしなくてもいいのではないか。
(3) Referenceの一部に提示されていたCEFRに関する文献、及び、ELPの効果研究に関する文献が、最新のものではないようなので、もう一度チェックし、最新のデータを用いた方がよいのではないか。
(4) CEFRの6段階の言語熟達度の指標は、本当に参考になるものなのか。それを学生がどのように参考にし、どのように自己の学習目標として内在化し、学習が進展していくのか、わからない。
  これら聴衆から率直なコメント、意見、疑問を頂戴することができたので、今後の参考検討項目の一部として、本派遣で得たより広い知見を生かして研究に励んでいきたい。

7.本事業について
 

 本事業は、学生の国内での研究発表を支援、促進するものであり、今後博士論文をまとめていくに過程においてこのような機会を活用し研究の進捗状況を発表できるという点は、とても意義があるものと思われます。

 
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