和漢比較文学会第七回特別研究発表会にて口頭発表及び現地調査。
台北市(国立台湾大学、台北国立故宮博物院、台北国立歴史博物館ほか)
平成26年8月26日(火)から9月2日(火)
和漢比較文学会第七回特別例会にて研究発表を行った。和漢比較文学会は、日本国内で例会と大会を主催するほか、年に一回、中国の西安と台湾で国際シンポジウムの形式で特別例会を主催している。今年は七回目の開催となり、国立台湾大学と共催で、台湾大学構内に会場を置き、8月28日と29日に研究発表会を行い、30日にエクスカーションが行われた。プログラムは以下の通りである。
二日間にわたる研究発表会において、日本と中国・台湾の日本文学の研究者と大学院生がそれぞれの研究成果について報告し、文学だけではなく、歴史学や民俗学の発表もあり、幅広く多彩な内容であった。会場に活発な討論が行われ、今後、自身の研究を進めていく上においても大変有意義であった。
エクスカーションは貝殻寺や十八公廟などを見学し、仏教と道教が融合する台湾の民間信仰の実態を学んだ。また、学会の前後の滞在時間を利用して、台北国立故宮博物院、台北国立歴史博物館などを見学し、日本の古代文化にも多大な影響を与えた中国の貴重な文献・文物を実際に見ることができ、大変勉強になった。
「灯下読書」の和と漢―『徒然草』第十三段を例に―
『徒然草』の文章と思想は、漢籍による所が大きいことは周知の通りである。第十三段に、「ひとり、燈のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。文は、文選のあはれなる巻々、白氏文集、老子のことば、南華の篇。この国の博士どもの書ける物も、いにしへのは、あはれなること多かり」とあるように、兼好法師は『文選』『白氏文集』『老子』『荘子』を漢籍の代表としてあげており、長い夜にひとりで燈のもとで読書することを通して、古人との「神交」を楽しみとした。この短い一段は『徒然草』の中にも後世に大きな影響を与えたものである。例えば、近世期に『徒然草』は盛んに読まれ、一種のブームを起こしたが、伝記の少ない作者兼好法師の肖像画のほとんどは燈のもとで読書する姿で描かれた。言うまでもなくこれは第十三段の影響である。しかし、燈のもとに文を読むという場面も表現も先行の日本の古典作品に見ないものであるが、おそらく『徒然草』の影響で、江戸時代の俳諧付合集である『類船集』(一六七六刊)に「物の本」と「灯のもと」は付合のことばとしてあげられている。本発表は、このように灯のもとと物の本、つまり漢籍を関連させた『徒然草』第十三段の発想の源を辿りたい。『うつほ物語』『落窪物語』『源氏物語』などの日本の古典作品に見られる「灯のもと」の用法より、『徒然草』は漢詩に詠まれる「灯下読書」の場面の影響を受けたと考え、漢詩における「灯下読書」の詠まれ方と関わりながら考察する。特に「灯下読書」を多く詠み込んだ陸遊の詩などと比較し、『徒然草』における宋詩の受容を考える。
谷口孝介先生より
唐詩と平安時代の漢詩と『徒然草』との間は具体的にどのような影響関係を考えるか。
新間一美先生より
平安時代と江戸時代の作品が『白氏文集』を引用する際に使うテキストの違いをご指摘頂き、実際に「灯下」という表現を使っていないが、三首とも友人に送る『白氏文集』の漢詩は『徒然草』に与えた影響は大きいではないか。
和漢比較文学会第七回特別例会発表の際に貴重な意見を頂き、発表の内容を検討し直して、雑誌論文として投稿した上に、博士論文の一章として取り入れる予定である。
また、現地調査を通して、普段見られない文献資料・文物遺跡などを目にすることができ、とても勉強になった。学会の参加を通して、他大学、他国の先生・学生の方々と学術交流・意見交換ができ、視野を広げ、今後研究を続けていく上にとても良い経験となった。
文化科学研究科学生派遣事業により、旅費の支援を頂いて海外の研究発表・現地調査が経済的に困らず実施できることは、学生にとっては非常に有り難く思います。他国・他領域の研究者の交流の場に参加し、視野を広げ、発表・交流の場で頂いた貴重な意見は博士論文の執筆だけではなく、今後の研究にとっても有意義なものです。