ポスター発表

ポスター発表

現代タイ社会における開発の進展と僧侶間関係の構築
-「北タイ・コミュニティ開発僧ネットワーク」の事例より-


発表者所属名
地域文化学専攻・国立民族学博物館
発表者氏名
岡部 真由美

 研究の背景および目的

・開発の進展に伴って、さまざまな課題が表面化 (ex)貧困、エイズ、高齢者、森林保護など

・一部の僧侶たちの間にみられる世俗社会への強い志向性
「僧侶は社会のために働かなければならない」

・さまざまな地域の僧侶たちから成るグループを設立し、「社会のため」の仕事に関する知識や経験を交換するための活動を実施 
⇒こうした活動を通じて、僧侶たちはどのような関係性を構築しているのか?

 事例

「北タイ・コミュニティ開発僧ネットワーク」(事務所:チェンマイ市・スアンドーク寺内)

 調査方法

僧侶たちへの聞き取り、および「ネットワーク」の活動における参与観察

 調査期間

主に7か月(2004年10月~2005年4月)。以後は断続的(~2006年5月まで)

設立経緯 1980年代末: 北タイ各地で小規模な僧侶グループがいくつか結成される
1990年代初: エイズケアを行う僧侶たちが、NGOのセミナーに頻繁に招かれる
1997年   : 県庁前での農民集会に招かれた僧侶たちがグループを結成
⇒同じ分野で活動する僧侶同士のつながりを深める必要性に気づく
⇒チェンマイ近郊のD寺で、何度も会議を開催
2000年D寺で「北タイ・コミュニティ開発僧ネットワーク」設立(後に市内へ移転)
課題 ・古くからコミュニティ開発に取り組む僧侶たちは、サンガ内の責務で多忙化
・既存の小規模グループは、グループ間の連携や広報が欠如
・若手僧侶たちがコミュニティ開発に取り組む機会が減少する可能性が高い
目的 ・北タイの「開発僧」や、開発活動を行う若手僧侶たちの能力を伸ばすこと
・サンガ(僧団)内の要職に就く僧侶たちや一般住民に対して、僧侶による開発活動への理解を促すこと etc.
組織 ・委員会(代表、副代表、書記ほか)のみ設置
・事務的な仕事は、「ポーティヤライ」財団が担当
・ミーティングやイベント開催時、北タイ上部8県から、不特定多数の僧侶が参加
活動内容 意見交換のためのミーティング、互いの活動訪問
「ポーティヤライ」の機関誌にて広報(活動報告、僧侶の紹介)

 考察

①「社会のため」の仕事という共通の関心にもとづく、水平的な僧侶間関係

⇔出家年数やサンガ内の位階によって序列化された、垂直的な関係

②寺院と地域社会を越えた僧侶間関係の広がり

⇒僧侶たちが個別の地域社会のニーズに応えるだけでなく、そこでの知識や経験を共有する場を形成

⇒NGOを中心とする市民社会からの承認を求めた、僧侶による社会運動