
文化人類学では、人々が歴史的に生み出してきた生活様式(文化)を「環境」に適応するための手段である、と考える見解が存在しています。すなわち、水の乏しい地域や極寒の地域では、人々がそれらの環境条件のもとで生きていくことができるようにさまざまな社会制度や物質文化を創り出し、それを利用してきた、と考えます。これは、文化という個人を越えた集団レベルに着目した巨視的な捉え方です。
一方、文化社会的な存在である人が、孤独感や病気の恐怖、精神的な苦痛、肉体的な限界などにさらされるとき、どのように生きることができるのでしょうか。このシンポジウムでは、歴史的な変動期における(中世日本での)文学の創作と(19世紀アメリカでの)民衆健康運動に関する報告を行った後、物理的な極限状況における人間の活動について対談を行います。対談では、北極に生きる人々の生き方と南極で調査に従事する研究者の活動について紹介します。これらの報告と対談を通して、極限状態で人はどのように生きているかを考えてみたいと思います。
このシンポジウムでは、極限(状態)は、多くの可能性を制限したり、無にする条件となる一方で、新しい知や生き方を生みだす条件であることを明らかにしたいと考えます。
本年度学術交流フォーラムでは、文化科学研究科開設20周年を記念すると同時に、交流フォーラムの新たな可能性を開拓することを目的として、基盤機関での開催、一般開放など、従来とは違った要素を盛り込みました。その一環として、シンポジウムにおいては民博での特別展を基調としつつ、文化科学研究科教員による報告に加え、総研大内の他学科からパネリストを招いての対談をおこないました。また、基盤機関院生・職員にご協力いただき、基盤機関ならではの器楽演奏など、アトラクション要素を盛り込むこともできました。
今後もこの学術交流フォーラムが、文化科学研究科内、総研大内、そして総研大と外の世界との交流の活性化に役立つことができればと考えます。
(学生企画委員 荻野夏木)