総合研究大学院大学 文化科学研究科 学術交流フォーラム2009

学生による口頭発表

学生による口頭発表

変化するもの・継承されるもの -中国雲南省ミャオ族の服飾文化-

発表者所属名
地域文化学専攻・国立民族学博物館
発表者氏名
宮脇 千絵

 中国西南部から東南アジアにかけて居住するミャオ族(東南アジアではモンで知られる)は、その華やかな衣装が特徴的であり、内外の研究者はもとより、観光客や収集家などからも注目を集めている。ミャオ族の衣装は、精巧な刺繍やロウケツ染め、麻製の布、細かいプリーツをとったスカートなど独自の技法やスタイルをもっている。その製法やデザインは母から娘へと受け継がれてきており、女性たちは毎年新年を新しい衣装で迎えるために、忙しい農作業の合間をぬって製作作業に勤しむ。
 ところが雲南省文山州一帯では、この10年ほどでミャオ族の衣装が急速に変化している。その変化は、素材や色といったデザインに関するもの、製作方法や入手法、着用法に関するものなど、様々な部分にみられる。その要因として、まずミャオ族をとりまく経済的な変化があげられる。1980年代から商品作物の栽培が増えたことと、2004年ごろから都市部への出稼ぎが増えたことにより、現金収入が増加した。それと関連して生活時間の変化もあげられる。教育や出稼ぎの機会が増えた若者にはもはや衣装製作にかかわる時間がない。また商品作物の導入により、農作業の年間サイクルも変わり、麻を栽培するところからはじまる衣装製作のための時間が以前より取りにくくなった。また出来合いの衣装や素材が定期市などで手軽に購入できるようになったのも大きな要因だろう。工業生産されたカラフルできらびやかな化繊布をまえに、着用する女性たちにも、人と違うものが着たい、去年と同じものは着たくない、といった心理がうまれてきている。これまで受け継がれてきたスタイルや色合いはもはや固定的なものではなくなり、次々と新たな流行が生まれている。
 急速に広まるグローバリゼーションの波によって世界各地で民族や地域に固有の衣装が廃れ、ジーンズやTシャツといった洋服へととってかわられる現象は当たり前に見られるものとなっている。だがミャオ族の場合はまっすぐに洋服着用へと移行せず、農村ではいまも日常的に固有の衣装が着用されつづけている点に特徴がある。彼女たちは様々な意匠的変化を加えながらも、「ミャオ族の衣装」を保ち続けているのである。
 それでは、このように変化しつづけているにも関わらず、それが「ミャオ族の衣装」でありつづけるのはなぜなのだろうか。それは変化のなかにあって変わらずに継承され続けている部分があるからだと考えられる。その継承は特定のパターンやデザインといった表面的な部分にみられるだけでなく、どんな機会や場面で着用すべきかといった、衣装をとりまく文化的背景にも関係している。
 本発表では、雲南省で得た調査データをもとに、ミャオ族の衣装がどのように変化しているのか、そしていかに継承され続けているのかを明らかにする。