海外学術交流支援事業成果報告会 趣旨

日本文学研究専攻長 安永尚志


文化科学研究科では,特定教育研究経費による事業「有機的に連動した文化科学研究教育の推進に関する実践的研究」を実施している.学生の海外派遣支援事業はこの事業の目玉の1つである.文科系の学生が,海外で学術研究活動をする機会はフィールドワークを除けば,理系の学生に比べてほとんど無いと言ってもよい.例えば,海外で開かれる国際会議に参加する,あるいは研究発表するなどの経験もそれほど多くない.

学生の海外派遣はどんな意味があるのだろうか.これについて,2つの側面を強調しておきたいと思う.

1つは,当然であるが国際会議等への参加による学位論文のレベルの向上である.言わずもがなであるが,異文化の国で異文化の人々の参集する場で,自分の論文を発表し,充分に理解してもらうことは困難かも知れないが,その経験は極めて重要であろう.言わば,自らの論文の国際的評価を得ることであるからだ.国際会議に参加するだけでも,自分の研究テーマの相対化などに有効な視点を得ることが多い.広い視野の獲得に繋がれば,その効果は大きい.

ところで,よく,語学力がないので行かないと言う.確かに,充分に意志を伝えるためには充分な語学力はあった方が良いに決っているが,たとえ辿々しくとも,要は真摯な真剣な発表とコミュニケーションである.真面目な発表は聞手の心を打つものだ.恐れることはない.要は度胸と真剣さ.

今日,文化科学の研究者は,人間を研究するという意味において,たとえ研究対象が日本の文化と言うことであったとしても,国際的な場の中で発言し,コミュニケーションをはかることが益々重要視されてきている.また,世界のいたるところで人間の営みがあり,それらを研究対象とする場合も,その学問の状況を知るためにも,実際にその現場に赴くことが必要である.行って,人々と会い,顔を合せて話をすることが不可欠である.電子メールは非常に便利なものであるが,またインターネット上には多様な情報が大量に溢れているが,対面以上に優る有効な方法はあり得ない.

2つは,やはり人との交流である.海外に行き,人と出会うということである.それはその道の専門家や学生であることもあり,異なる分野の研究者や学生であるかも知れない.今後の学問について,得難い先生や友人がそこに待っているかも知れないのだ.あるいは,宿屋のおばさん,おじさんであることもあり,何かの機会で知合った見ず知らずの人達である場合もある.

一方,その国の様々な風物に触れることは,正しく百聞は一見に如かずである.地勢,風土,町並,建物,建造物,文化遺産,文化,言語,風習等々,影響を受けないことはあり得ない.異文化を直接肌で知ることは重要である.

繰返すが,文化の学問に携わるものとして,人と人の交流,連携というものの機会を最大限に生かすこと.文化科学研究科の学生に,基本的な国際的素養を得てもらうこと.この事業の目的はここにある.

今回の学生合同セミナーは,事業に参加した学生の報告を主旨としている.しかし,単なる研究発表や研究報告ではなく,何か掴んできたトピックスをプリゼンテーションして欲しい.もちろん,ここではプリゼンテーション技術の習得も狙いの1つである.

発表者の経験を共有化することは,今後の研究に何らかの役に立つと期待するが,さらにこの事業の更なる進化につながることを望んでいる.

研究科選定国際会議等派遣事業参加者

(1) EAJS Conference ヨーロッパ日本研究協会日本研究会議

期間:平成17年8月31日(水)~平成17年9月3日(土)
場所:ウィーン大学(オーストリア)

澤田晴美(国際日本研究)
佐貫正和(日本歴史研究)



(2)北京日本学研究センター設立20周年記念シンポジウム

期間:平成17年10月14日(金)~平成17年10月16日(日)
場所:北京外国語大学・北京日本研究中心(中国)

李偉(国際日本研究)



(3)アジア太平洋日本研究シンポジウム

期間:平成17年9月30日(金)~平成17年10月3日(月)
場所:香港中文大学(中国)

李偉(国際日本研究)



(4) ICJS conference 日本文学国際共同研究会議及び29th AISTUGIA Conference
   第29回イタリア日本研究学会会議

期間:平成17年9月21日(木)~平成17年9月25日(日)
場所:フィレンツェ市(イタリア)

七田麻美子(日本文学研究)
大野順子(日本文学研究)



学会報告者

松尾瑞穂(比較文化学)
2nd Global Conference: Critical Issue in Sex and Sexualit
期間:平成17年11月30日(水)~平成17年12月3日(土)
場所:ウィーン(オーストリア)

金炳辰(国際日本研究)
2005年度韓国日語日文学会「日韓共同学術大会-日韓間の文化交流と境界-」
期間:平成17年10月20日(木)~平成17年10月22日(土)
場所:韓国(ソウル)
発表題目:「大杉栄と朝鮮-「黒涛会」をめぐって-」

森本利恵(地域文化学)
Association of Social Anthropologists of Aotearoa New Zeal and Incorporated (ASA/NZ)
期間:平成17年11月24日(木)~平成17年11月26日(土)
場所:ヴィクトリア大学、ウェリントン、ニュージーランド

酒井順一郎(国際日本研究)
北京日本学研究センター設立20周年記念シンポジウム
期間:平成17年10月14日(金)~平成17年10月16日(日)
場所:北京外国語大学・北京日本研究中心(中国)
発表題目:宏文学院の日本語教授法と近代日本小学読本教授法との関係 
       -「ヘルバルト主義教授法」と「統合主義新教授法」-

七田麻美子(日本文学研究)
国際シンポジウム「世界的視野における日中文化」
期間:平成17年9月10日(土)~平成17年9月11日(日)
場所:北京師範大学(中国)
発表題目:「『本朝無題詩』の山寺詩-慈恩寺の詩を中心に-」